もしもそんな嘘をつくならば
「……ねえ、ルイス義姉さん。僕たちからも、ちょっといい?」
クラークの声に我に返ったルイスは、はっとしてグレンから離れる。
抱き合う姿を見られてしまった……!
と焦ったが、クラークとミリィが、そんなことは気にせず真剣な表情をしていたから。
ルイスも、動揺を表に出すことなく、彼らに向き合った。
ルイスがアルバーン邸に引っ越してきた日、四人で話した東屋へと向かう。
相変わらずメルヘンチックな空間である。
あとで知ったのだが、生垣の先にはお花畑と可愛らしい東屋が……というこの庭の作りは、ミリィが考えたものらしい。
女性騎士志望の、クールビューティーな彼女。しかし本来の姿は、ちょっと取り乱したりすることもある、可愛いもの好きの女性のようだった。
それぞれ席につき、使用人にお茶や菓子の準備をしてもらったら、下がらせる。
使用人が離れたことを確認すると、クラークは、
「まあ、あの様子なら、もう大丈夫かもしれないけど」
と前置きする。
あの様子、というのが、先ほどグレンに縋り付きながら本音を吐き出し、抱き合ったあの場面のことであろうと理解したルイスは、恥ずかしさから頬を染めた。
「今回の騒動について、僕たちからもルイス義姉さんに話がしたかったんだ」
「お義姉さま。兄は、あなたが番であると嘘をつくような人ではないわ。それに、もしも嘘でもいいから結婚したいと思っているなら、もっと早くやるもの」
「そう。ルイス義姉さんだって、兄さんと同い年なんだからもう18歳でしょ?」
クラークの言う通り、二人は同い年だから、ルイスも18歳だ。
ルイスが頷いたことを確認すると、クラークは話を続けていく。
「ルイス義姉さんも子爵家の娘だ。18ともなれば、いつ他の男と婚約したっておかしくなかった。既に婚約済みだって不思議じゃない」
「もしも兄が、嘘をついてでも初恋の人と結婚しようとする男だったら、もっと早く……15歳や16歳のときにそうしているはず。お義姉さまが、他の人と婚約してしまう前に」
言われてみれば、たしかにそうだった。
家の事情などで個人差はあるものの、この国の貴族は、10代後半のうちに婚約を結ぶことが多い。
ルイスは、既に婚約適齢期。実際、グレンの番であると判明する前は、縁談なども持ち上がっていた。
アルバーン家の獣人一家が眩しすぎるためか、ルイス本人はいまいちわかっていないのだが――ルイスは、男たちがぜひ自分の元へ、と望むような美人だ。
ふわふわの柔らかそうな金髪は思わず触れたくなるし、優しい緑の瞳には、もっと見つめて欲しくなる。
白く滑らかな肌に、小ぶりな唇。
女性の中でもやや小柄だが、そこがまた、彼女の愛らしさを引き立てており。
しかし、胸は服の上からでもわかるほどに豊満で。
優しい性格の小動物のように愛らしいが胸は大きいというアンバランスさが、男を狂わせる。
そんなルイスを自分の妻に、と望む貴族の令息や、地元の有力者は多かった。
それでもルイスが婚約していなかったのは、グレンへの想いが断ち切れていなかったからだ。
彼が嗅覚を発現させ、自分が番ではないとわかったら。己の身の振り方は、そのあと考えようと思っていた。
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