婚約と新生活
その日のうちに、二人はそれぞれの家に自分たちが番であったこと、婚約をしたい旨を報告した。
アルバーン公爵邸にいたため、まずはグレンの両親に。
「番だとわかったのなら、先にそれを報告しなさい」
「申し訳ありません、父上。初恋の人が番だった喜びで、失念しておりました」
「……まあ、気持ちはわからなくもないが。ルイス嬢の立場も考えるように」
「はい。以後、気を付けます」
しれっと嘘をつきながら、グレンは自分の父親に頭を下げる。
グレンの父・アルバーン公爵は、溜息をつきながらも理解を示してくれた。
アルバーン公爵家には、獣人の血が入っている。グレンの父も狼系の獣人なのだ。
だから、番がすぐそばにいた喜びと、その喜びから一夜を共にしてしまう勢いについて、わかってしまうのだろう。
……まあ、番だとわかったのが先だ、という話がまず大嘘なのだが。
その嘘がバレない程度には、獣人にとって番とは大きな存在なのである。
順番は守りなさいとお叱りは受けたが、グレンの番が見つかったこと、相手が縁の深い家の生まれであるルイスであったことを、彼の両親は心から祝福してくれた。
「ルイス嬢。突然のことで戸惑っているかもしれないが……。うちの息子を、よろしく頼む」
グレンと同じ銀髪碧眼のナイスミドルは、息子の番・ルイスに向かって手を差し出した。
「は、はい! 不束者ですが、よろしくお願いいたします」
ルイスからも手を伸ばし、二人は固い握手を交わす。
嘘をついた上に、昨夜のことをグレンの過失のようにしてしまったものの、自分たちの婚約が認められたことに、ルイスは一安心していた。
そんな喜ばしい場面での、義理の父娘となる二人の握手程度の触れ合いであっても、ちょっぴり気に食わないのが番のグレンである。
「……父上、もういいのでは?」
迫力のある低音に、真顔。
アルバーン公爵にはグレンの気持ちが理解できたようでぱっと手を放したが、ルイスのほうは「番への独占欲、強くない!?」という気持ちであった。
異性との接触には、今まで以上に気を付けたほうがいいなと思いながら、ルイスはグレンとともにエアハート子爵家へと向かう。
エアハート子爵家では、グレンはルイスの父に顔面を殴られた。
俺が殴られるぐらいで済むなら構わないさ、なんて冗談交じりに話していたら、本当にそうなってしまった。
「今このときだけは、無礼をお許しください」
「今の私は、子爵家の当主ではなく、ルイスの父親としてここに立っています」
との前置きつきの、なかなかの強パンチであった。
しかし、身体が丈夫で、体幹も強いグレンは、よろつくこともなく、義父となる人の一撃を受けきった。
婚約前のお泊まりになったのは自分のせいであったため、ルイス、大慌てである。
グレンが彼女を制さなかったら、自分が悪いのだと本当のことを話してしまっていただろう。
一発いれる騒動はあったものの、なんだかんだで、エアハート子爵家も、二人の婚約を認め。
二人は、晴れて正式な婚約者となったのだった。
番を見つけたグレンは、正式に次期当主へと任命された。
家を継ぐにあたってグレンに足りないものは、婚約者ぐらいだったのである。
婚約者――それも、運命の番である――が決定した今、グレンが後継者となることに、なんの障害もなかった。
そして、筆頭公爵家次期当主の妻となる、子爵家生まれのルイスは。
「アルバーン公爵家の皆様。グレン様の婚約者の、ルイス・エアハートです。これから、よろしくお願いします」
使用人を含む、アルバーン公爵家の面々の前で、ルイスが深々と頭を下げる。
婚約から少し経った頃。彼女は、アルバーン公爵邸に移り住むこととなった。
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