今後のお話
「それで、これからについてなんだが」
「は、はい」
昼食を終えた二人は、今後についての相談を進めていく。
ちなみに、ルイスの位置はグレンの膝の上である。
この男、長年の片思いの相手が番だとわかった途端に、遠慮せずとことん愛する姿勢であった。
グレンに後ろから抱き込まれる状態のルイスは、声をうわずらせながらも、なんとか話についていこうとしていた。
ルイスは、腰まで届くふわふわの金髪に、優しい緑の瞳を持つ可憐な女性だ。
女性としてもやや小柄なものだから、長身で体つきもしっかりしたグレンから見れば、愛らしい小動物のようだった。
幼いころから彼女のことが好きだったグレンには、出会ったころからずっとルイスが国一番の美人に見えていたが、今はさらに輝いて見える。
俺の番は世界一だな、と思いながら、グレンはルイスの髪を自分の指に絡ませる。
「……きみが俺の番だとわかったのは、昨日だということにしよう」
「昨日、ですか」
「ああ。そのほうが、いろいろと都合がいいだろう? 昨日、きみと一緒にいるときに、俺の番を見分ける嗅覚が発現。ルイスが番だとわかったうえ、俺たちは昔から両想いだったと判明する。そして、結婚の約束を……」
「私たち、両想いだったんですか?」
「……ん?」
ここで、グレンは気が付く。
自分も前から好きだったと、彼女に伝えていなかったことに。
昨夜、ルイスは「前からあなたを慕っていた」とグレンに好意を伝えているが、グレンからは告白していない。
グレンはルイスを己の膝に乗せたまま、自分の額を抑えた。
「……ずっと前からあなたのことが好きだったので、一夜でもいいからと、きみへの想いが消える前にと、我慢できず抱きました」
「あっ、はい……」
これでは、ルイスからすれば、同情や哀れみで抱かれた翌日、番だからと愛されるようになった、と見えてもおかしくはない。
自分の想いを伝えないまま彼女を抱いた己のしくじりに、グレンは思わず敬語になった。
グレンがずうんと肩を落としたことを感じ取ったのか、ルイスもぎこちない。
なんとも言えない沈黙が、場を支配した。
「……まあ、そういうことだ。俺は元々、きみのことが好きだった。だから、きみが番だとわかったときは、心底嬉しかったよ」
「グレン様……」
自分の想いを伝えずに手を出したことを、グレンは謝罪した。
ルイスはそんな彼の手に触れ、無理を言ったのは自分だ、気にしないで欲しい、と笑った。
「今後のお話、でしたよね?」
「あ、ああ。そうだったな」
最初にグレンが話した通り、番だとわかったのは昨日であると話を合わせることに。
ルイスの訪問、グレンの嗅覚の発現、ルイスが番だとわかる、両想いだったことが発覚。そして、結婚の約束をした。
そんな順に進んでいき、その日のうちにお泊りをした。
その流れであっても正式に婚約する前に手を出したことにはなるが、獣人とその番で、合意のうえだったのなら、ルイスが強く非難されることもないだろう。
人間同士の貴族であったなら、婚約前になんてことを、と言われるかもしれない。
しかし、相手の男であるグレンは獣人で、ルイスは彼の番。
獣人と番のあいだに起きたことであれば、風当たりもそこまで強くないはずだ。
それに、婚約前に行為に及んだことを把握することになるのは、両家の近しい者ぐらい。
対外的には、二人はまだ清い関係である、ということにしてしまえばいい。
さりげなく婚約、結婚の話が盛り込まれていたが、元から両想いだった番なのだからまあ当然だろう。
ルイスも、もちろん彼との婚約を受け入れた。
大体そんな形で、二人の話はまとまった。
話を合わせることには賛成しつつも、ルイスの表情には少し影が見える。
自分から無理に迫ったというのに、結局、グレンに守られるような形になってしまったことを、申し訳なく思っているのだ。
そんな彼女に、グレンはおどけてみせた。
「なに、婚約前に手を出した俺が、きみの父君に殴られるぐらいさ。それくらい軽いものだよ」
「な、殴るまではしないと思いますが……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます