私があなたの番!?

 オレノツガイ?

 オレノツガイ、とは?


 ルイスの中で、グレンの言葉が繰り返される。

 音としては拾えたが、理解がおいつかない。

 え? どういうこと? え? と更なる混乱へ向かうルイスを置いてきぼりにして、グレンはじいんと、感慨深そうに「俺の番可愛い……」「ルイスが番でよかった……」と言いながらルイスの金の髪を撫でている。

 

 つがいって。私が番って、どういうこと――!?


 その後もグレンは、甘い表情を浮かべながら「ルイス、ルイス」と自分の腕に抱く女性の名を呼び続ける。語尾にハートがついているような気すらしてくる。

 一般的に、番を見つけた獣人は、番一直線になるという。

 本当にルイスがグレンの番なのだとしたら、この状態が「番一直線」というやつなのだろうか。

 ともかく、いったん落ち着いて説明をしてもらう必要がある。


「……グレン様! ぐ、れ、ん、さ、ま!」


 ルイスは、渾身の力で腕をつっぱり、グレンを自分から引きはがす。

 身体能力には相当な差があるため、グレンが本気になればルイスの力で彼を押し返すことなどできないが、グレンはようやくはっとしたらしく、素直にルイスから離れてくれた。

 同じベッドに横たわり、向き合っている状態のままではあるが、なんとか会話になりそうだ。


「あ、あー……。すまなかった。番を見つけた喜びで、つい……」


 やってしまったと思っているらしく、グレンの白い耳はしゅんと垂れている。

 本人の感情を反映する狼耳を可愛らしく感じつつも、ルイスは本題へ。


「グレン様。その、番とは、いったい……」

「……ルイス。きみこそが、俺の番だ」

「……へ? えっと……? でも、昨日まではそんなこと言ってませんでしたよね?」

「……今朝わかった」

「けさ」


 今朝とはまた、ずいぶん急である。

 いやまあたしかに、「いつ番を見つけたっておかしくない」と昨日の自分も言いはしたし、「明日かもしれない」という不安はずっと抱いていたが。まさかのまさかである。


「俺は今日、甘い香りに誘われて目を覚ました。これは番のものであると、本能的に理解した。香りの発生源をたどったら、きみだった」

「はあ……」


 嬉しいことのはずなんに、気のない返事をしてしまった。

 ルイスはそれほどに驚いていたのだ。

 彼に情けを望み、一夜をともにした。たった一度の思い出をもらって、それを抱いて生きていくつもりだった。

 なのに翌朝、彼は自分のことを番だと言う。朝起きたらわかった、と話すのだ。

 ルイスは思う。

 そんな都合のいいことある!? と。

 自分は彼の番ではない。彼はいつか別の人を見つける。そんな覚悟をしながらも、彼に抱かれた翌日にこれなのだ。

 都合がよすぎでは、と思ってしまうのも、無理はないかもしれない。

 もしかしたら、自分を抱いた責任を取るために、彼が嘘をついているのでは、とも思ったぐらいだ。

 しかしグレンだって、昨夜のことは一夜の思い出と割り切っていたはず。

 だからこその、あれだけの情熱的な時間だったのだろう。


「えっと……。女性の香りを、番のものだと勘違いしている可能性は?」


 男性は、女性からいい香りがすると思ったり、甘い匂いを感じたりすることがあると聞いたことがある。

 女性のルイスだって、昨夜はグレンの香りに包まれてとてもいい気分になった。

 もしかしたら、グレンは女性の自分を抱いたことで、勘違いをしてしまったのではないか。

 そんな疑問を口にすれば、グレンは首をよこにふる。


「ない。たしかに前々から、きみからはいい香りがすると思っていたが、番のそれとは違う」


 グレンが片腕をベッドにつき、上体を持ち上げる。

 毛布がずれ、彼の逞しい肉体がさらされた。

 昨夜のことを思い出してしまい、ルイスは頬を染める。


「今なら断言できる。俺の番はきみだ。ルイス」


 グレンの銀の髪は、カーテンの隙間から差し込んだ朝日をうけて、きらめいた。


「……! 私が、あなたの、番? ……本当に? 貴族の女の初めてを奪った責任を感じているわけではなくて、本当に?」

「本当に、だ。なんなら、今からもう一度、きみを愛したっていい」


 そう言うと、グレンはルイスに覆いかぶさる。


「~~っ!」


 昨夜と同じ体勢、同じアングルに。男の下で、ルイスは硬直した。

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