2章 狼公爵の溺愛

「ん、んん……」


 翌朝。

 ルイスの意識が、ゆっくりと浮上していく。

 ぼんやりとしながらも目を開けると、目の前には――。


「おはよう、ルイス」


 とろけるような甘い表情を浮かべた、グレンの顔が。

 いつもきれいに整えられた銀の髪は乱れ、青い瞳は愛おしそうに細められている。

 ルイスが目覚めたことを確認すると、彼はちゅ、と彼女の額にキスを落とした。

 まだ寝ぼけているルイスは、大好きな彼の温もりを求めて、自らグレンのほうへと体を寄せる。

 グレンは、そんなルイスを優しく抱きしめた。

 肌と肌が触れ合って、心地いい。

 あったかくて、なんだかすごくふわふわとして。

 ルイスは、あまりの心地よさに、再び眠りの世界へと向かいそうになってから――


「え!?」


 なんだこの状況は、とかっと目を開けた。


「え!? ぐ、グレン様!?」


 驚いて飛びのくように身体を起こすと、下半身に痛みが走る。

 毛布がずれたことで裸体がさらされ、自分が服を着ていないことも理解した。

 ずきずきと腰が痛むことを感じながら、胸を腕で隠し。

 ルイスは、ここに至るまでになにがあったのかを、思い返していた。

 ちなみに、ルイスは胸が豊かなほうであるため、腕で抑えても隠しきれてはいない。

 豊満な胸が、本人の腕にむぎゅ、と潰された様子は、健全な成人男性のグレンからすれば眼福であった。


 ルイスは昨日、一夜の思い出をくださいとグレンに懇願し、彼はそれを受け入れ。

 二人は、夜をともにした。

 これが最初で最後だからと、それはもう、情熱的なときを過ごしたのだった。

 自分からすがりついたこと、そのあとのこと。あれそれ一気に思い出し、ルイスは耳まで真っ赤に染め上げた。


「わ、わたし……なんてことを……」


 グレンのことがずっと好きだったのも、彼が番を見つけてしまうのではないかと思いつめていたのも事実だ。

 だが、彼と身体の関係を持ち、朝を迎え。

 ルイスはすっかり頭が冷えて、自分がしでかしたことの重大さに、頭を抱えそうになっていた。

 実際に抱えてしまいたいが、胸を抑えているために腕は使えない。

 そんな彼女とは対照的に、グレンは落ち着いている。


「ルイス。まだ休んでいたほうがいいよ」


 あわあわしているルイスをベッドに横たわらせると、そっと毛布をかけて彼女の裸体を隠した。


「あ、あの、グレン様、私……」


 ベッドにて。至近距離でグレンに向き合うルイスは、まさに顔面蒼白といった様子だ。

 それ以上は言葉を紡げず、口をぱくぱくさせている。

 混乱しきりのルイスを気にすることなく、グレンは彼女のやわい頬を撫でた。


「昨日は、無理させてしまってごめん。どこか痛くしてないか?」

「え、えっと、腰が、ちょっと……」


 痛みはない、大丈夫、と答えるべき場面だったのかもしれないが、今のルイスに、そんな気遣いをする余裕はなく。

 正直に、腰が痛いと言ってしまった。


「そうか……。すまなかった」

「ひゃあ!?」


 グレンが労わるようにルイスの腰をさするものだから、彼女からはあられもない声があがる。

 昨夜のあれそれといい、今の状況といい。ルイスはもう、限界だった。

 もはやグレンの顔を見ることができないし、自分の顔も彼に見せることができない。

 ルイスは両手で顔を覆い、ぷるぷると震える。

 グレンからすれば、今のルイスは、部屋のすみっこで震える小動物のようだった。


「……可愛い」


 グレンの逞しい腕に抱き寄せられ、髪や額に何度もキスを落とされて。

 相手が当然のように触れてくるものだから、ルイスは余計にぐるんぐるんになってしまう。

 ルイスには、今のグレンの状態がよくわからない。

 グレンはこれまで、ルイスにこんなふうに触れることはなかった。

 それも当然だ。自分たちは貴族で、婚約者でもなんでもない。グレンに至っては、筆頭公爵家の嫡男だ。

 様々な問題が発生するため、貴族の令嬢と気軽に性的な接触をすることはできない。

 それが、一夜をともにした途端にこれである。

 ルイスは、「身体の関係を持つと、男性ってみんなこうなるのかしら!?」なんて思ったりもした。


 グレンは愛おしそうにルイスを撫でたりキスを落としたりし続けており、離してもらえそうにない。

 ルイスは彼の愛を受け入れながらも、どういうことなの、どうすればいいの、と悩んでいた。






「あの、グレン様……?」


 もう、どのくらいそうしていたのだろう。

 流石にそろそろ離してもらえないだろうかと、ルイスはそっと彼の様子を伺う。

 しかしグレンは、ルイスの戸惑いなど気にすることなく、噛みしめるようにこう口にした。


「はあ……可愛い。俺の番、最高に可愛い」

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