一緒に作るお菓子

 二人の秘密を作り、楽しく散歩もして。

 ルカとともに屋敷へ戻りつつ、アリアは思った。


(一緒にご飯を食べても、大丈夫だったりしないかしら)


 と。

 ルカがあまりに怯えるために一人にすることが多かったが、本当ならそばについていたかった。

 今日のように食べ物をこぼしたときだって、アリアが一緒にいればすぐに恐怖を取り除いてあげられたはずだ。

 あんな風に部屋の隅で縮こまり、誰にも助けを求められないまま震えている必要なんてないのだ。


(不自然じゃないように、さりげなく……)


 散歩からの流れを上手く使えば、彼を怖がらせずにランチタイムに持ち込めるかもしれない。


「そういえば、そろそろお昼ご飯ね。今日お庭で見たものが、ご飯に出てくるかもしれないわ!」

「おにわのおはなが、ごはんになるの?」

「ええ。もしかしたら、だけどね。ご飯のとき、一緒に探してみない?」


 正確には、出てくるとしてもこの屋敷の庭に咲く花ではないだろうが、そこはまあいいだろう。

 屈んで目線を合わせ、ダメ押しでウインクまでしてみる。


(さて、どうかしら……)


 このお誘いを、受けてもらえるかどうか。

 内心どっきどきだったが、ルカが「うん!」と返してくれてほっとした。

 流石に、庭で紹介したものがタイミングよく昼食で出てくることはなかったが、


「見つけたら教え合いましょう」

「食べられるものをまた一緒に探したいわ」


 と、次回以降の食事と散歩の約束を取り付けることにも成功した。

 料理長にも話を通したから、これからは食用花や木の実が食卓に並ぶ機会も増えるだろう。

 使用人にはまだ怯えるし、アリアに対しても完全に警戒が解かれたわけではないが、確かに前進したと感じている。

 ルカとの距離が少し縮まったことに加えて、収穫がもう1つ。


「意外と食べ物押しかもしれないわね……」


 昼食後、マナーの授業を受けるまでの間の時間に、アリアはそう呟いた。

 怯える姿ばかり見てきたから気が付かなかったが、ルカは食べ物への興味が強めのようだ。

 もっと仲良くなるため、彼の笑顔を取り戻すために攻めるならここではないかと思うのだ。

 少し考えてから、アリアは明日もルカを散歩に誘うことを決めた。




 そして迎えた翌日。

 アリアはルカとともに再び木苺を収穫した。

 食べたそうにしていたから少しだけ生食もしたが、多くはタルトやジャムに使うつもりだ。

 料理長の許可を得て、アリアが厨房に入る。

 彼らの仕事を奪うことにもなるため、公爵家に嫁入りしてからのアリアは家事炊事を使用人に任せるようにしていた。

 けれど、今回はルカのことだから特別だ。調理はアリアが行い、タルトはあえて完成させずにルカの元へ向かう。


「ルカ! タルトを作るのを手伝ってくれる? この上に、さっき採ってきた木苺をのせるの」


 アリアが持つタルトには、まだなにものっていない。ルカに話した通り、仕上げはこれから一緒に行うのだ。

 彼女の後ろには侍女のヘレンが控えており、木苺の入ったかごをもっている。

 ヘレンには木苺をおいて退室してもらい、ルカと二人でテーブルにつく。

 失敗して怒られるかもしれないと思ったのか、始めこそ気が乗らない様子だった。

 しかし、木苺を落としてしまったり、綺麗にのせられなかったりしても叱られることはなかったためか、だんだんと笑顔を見せるようになっていく。

 気が付けば、仕上げのほとんどをルカが行ったタルトが完成していた。


 さて、二人でのお茶会の始まりだ! と言いたいところだが……。


(今日は旦那様もいらっしゃるのよね……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

没落伯爵家の私が嫁いだ相手は、呪われた次期公爵様でした ~放っておけずにいたら、夫と甥っ子くんに溺愛されています!~ はづも @hadumo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ