3日 履けない靴下

『え、ボクと人形しかいないの?』

「みんなカレンダーから出てっちゃったの。

 そのうち会えるよ」

『玉のビジューには兄弟がたくさんいるんだ。

 早く見つかるといいね』


 飾られた青い玉が、ツリーで揺れていた。


 そうして12月3日。

 マリちゃんは、今日も誰よりも早く起き出し、急いでカレンダーを開けに行った。

 紙とキリトリ線で出来た扉が、ぱつッと音を立てて開く。


 やっぱり、中は空っぽだった。

 壁に空いた穴を覗き込み、マリちゃんは目を凝らす。


「お部屋だわ。玩具おもちゃがいっぱいある」


 その先には、玩具で溢れた部屋があった。

 といっても、マリちゃんには子供っぽい物ばかりだ。

 窓際にベビーベッドが置かれている。今は、部屋に誰もいない。


「赤ちゃんのお部屋だ。飾りはどこだろう」


 誰か部屋に入ってくる前に、急いで見つけないといけない。マリちゃんは注意深く部屋を見回した。


「見つけた!」


 ベビーベッドの足の陰に、小さな靴下が隠れていた。赤と白の縞々の靴下。マリちゃんには到底履けそうもない、小さな靴下だ。


『げっ』

「良かった! 早く戻ってきて!」

『嫌だね』


 靴下はあからさまに姿を隠した。ウールの生地がきゅっと縮まるのに驚いて、マリちゃんは尋ねる。


「ど、どうしてよ」

『戻ったら、あのクリスマスツリーに吊るされちまうんだろ?』


 靴下の口がそっぽを向いた。


『こちとら靴下に生まれたんだぞ。履いてもらわず干されっぱなしなんざごめんだね。

 これからは、こっちで赤ちゃんに履かれてもらうからさ』


 靴下は調子づいて喋り続けている。

 ふと、マリちゃんは首を傾げた。


「でもそこに居るのって、あなただけだよね?」

『そうだけど?』

「人間は、揃った靴下しか履かないよ。

 片っぽしかなかったら履かれないと思う」

『……えっ』


 靴下の色が、心なしか薄くなった気がした。


「家にぴったりの人形あるよ。

 クリスマスが終わったら、それに履かせてあげる。どう?」


 まもなく、ツリーに小さな靴下が飾られたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る