第29話 酔いどれエルフとハンバーガーハンバーガーお持ち帰り

 セラさんは本日、メリーさんを自宅に招いての食事会である。と言っても本日セラさんが買ってきた物はファストフード、そう。マクドナルドの各種バーガーセットである。

 

「メリーさん、以前より私は不思議だと思っていた事があるんだ」

「藪からスティックにどうしたんや?」

「うん、なぜマクドナルドではビールが買えないのか? 店によってはロッテリアはビールが飲めるのだが」

 

 揚げたてのポテトフライにビールは間違い無いだろうし、ハンバーガーも同様にまず間違いない。それが提供されていればお店でちょい飲みができるじゃないかというセラさんの考えにメリーさんはビールのプルトップをプシュッと開けて、

 

「ほら乾杯、だから犬神さんの部屋で飲んでるんやろ? はぁ、犬神さんの香りぃ。めっちゃ吸っとこ」

「これはドンキで売っている消臭剤の匂いだな」

「…………」

 

 雰囲気ぶち壊しのセラさんの一言、それに閉口しながらもメリーさんは犬神さんの部屋にいるという事に五感の全てを使って楽しんでいる。

 

「何なら犬神さんのいる時にくればいいのに、前にも言ったが犬神さんはメリーさんへの印象はかなりいいと思うぞ」

「犬神さんいたら固まって女子会どころじゃないやんけ! アホかセラ!」

「こっちの世界のモンスターは面倒だな」

「モンスターちゃうわ! 都市伝説や! と・し・で・ん・せ・つ! にしてもチキンナゲットはマスタード派なんやウチ」

 

 そう言ってマスタードソースにチキンナゲットをディップしてパクリと食べるメリーさん。そしてそのまま氷結のレモンをグビりと飲んで恍惚の表情を浮かべる。

 

「はぁ、んま」

「私が言うのもなんだが、メリーさんはアレだな。普段はサブスクを見て過ごして酒を喰らって悠々自適な生活をしてたまに犬神さんのストーキング。本来の目的を完全に見失っているんじゃないか?」

「それ言ったらあかんやつやん……だって今の人間って、今駅にいるの! とか言ってもメッセージツールで場所送ってきてとか、パンツの色聞いてきたりとか……ウチという怪異が認知されすぎてイタ電にしか思われてないんやもん」

「何だかなぁだな。まぁ私も元の世界に帰れるのか分からないし、この世界の食い物と酒はちょっと想像できないレベルだ。例えばこのビックマック、私の元いた世界、神々でも食った事ないだろうな。酎ハイにめちゃくちゃ合うし」

 

 バクリとビックマックにかぶりつき、そして同じく氷結レモン飲む。

 

「くあーーー! なんだこの酒、美味すぎるぞ!」

「少し前はストロング系が流行ったけど、結局この5度前後が酎ハイは一番美味しいのよね」

 

 そう言って二本目に突入するメリーさん。ポテトと食べるのにセラさんは冷蔵庫から瓶のトマトケチャップを持ってくる。メーカーはカゴメ。


「何それ? カゴメって瓶のトマトケチャップなんてあったんやな?」

「そうなのか? 犬神さんの家にはこれしかないからな」

「購入する調味料にも拘りがあるんや! 犬神さん素敵」

 

 犬神さんは口に入れる物はお酒を除き基本的に良い物をがモットーであり、今回セラさんがスプーンで適量お皿に盛っているトマトケチャップはカゴメのトマトケチャッププレミアム。普通にパンに塗るだけでもトマトを食べるより滅茶苦茶美味しい代物。

 ポテトフライをそのトマトケチャッププレミアムにディップして何げなく食べた時、口の中に楽園が広がった。

 

「何これ……すっごい美味しいやん。ヤバ」

「スパゲッティにあえるだけでトマトスパゲッティになるんだ。この前犬神さんに作ってもらったぞ」

「何それ自慢か?」

 

 こと犬神さんがらみになるとメリーさんの知能指数は随分落ちる。セラさんは叡智の種族エルフ。これ以上この会話を続けるとややこしい事になりそうなのでセラさんはこの世界で覚えた難しい言葉を使って話を逸らしてみる。

 

「この国の文民統制は恐るべき水準だと思わないか……とか言ってみるが」

「そうやな。一部ではある種の完全平和と言っても差し支えないわ。だって軍事専門家でもない連中が一国を破壊できるだけの力を持ってるから使う根性は無いからな。でも戦の本懐は先制攻撃、撃ってから撃ち返せだと今の世の中詰みになんで」

「そうなのか?」

「セラの世界にどんな兵器があったか知らんけど、今の世の中、一撃でこの国の全機能を停止させる程の破壊力を持った暴力が存在するんやからな」

「ど、ドラゴンとか魔王でもそんな力持ってないぞ……これ、この世界が私の世界に攻めてきたら終わりじゃないか……」

 

 とか言ってみてセラさんは犬神さん関係の会話を終えると安心して二本目の氷結レモンを開ける。しかしマクドナルドのセットで飲むのは悪くないなとセラさんは思った。食事メインになるのでお酒を飲みすぎにならない。

 結果としていつもみたいにお酒でやらかして犬神さんに怒られるような事もない。

 

「メリーさん、デザートの三角チョコパイ食べるか?」

「せやな、いただこか、お酒を飲んだ後の甘い物は格別やからな」

 

 マクドナルのメニューでお酒を飲んだ際、そのシメは多岐に渡る。例えばポテトとチキンナゲットセットだけで飲んだ場合は締めにバーガー系でもいいし、良い冷ましにホットコーヒーも悪くない。

 そして今回は無難に甘味でしめる。冬季限定のスイーツ、最近はファストフードのスイーツも滅茶苦茶美味しくなった。

 それをセラさんはサクサク食べながらガチャリと扉が開く音が聞こえる。

 

「おや、犬神さんが帰ってきたらしいな。ん? メリーさん?」

 

 玄関を見ていた間に振り返るとそこには既にメリーさんの姿は無かった。そしてそんなタイミングで犬神さんが気だるそうな顔でセラさんとテーブルに食い散らかしてあるマクドナルドのゴミ、そして氷結の缶。

 もしそこにメリーさんがいれば微笑ましい女子会に見えたのかもしれない、がそこにセラさん一人しかいなければ見え方が随分変わる。

 

「ほんとお前、終わってんな。叡智(笑)の種族とか毎回言ってるけど、一人で真っ昼間から飲み食いして恥ずかしくない? あとテーブルクソ汚いからちゃんと片付けろよ」

「ち、違うんだ! さっきまでメリーさんもいたんだ」

「あぁ、うんそうだね。いいから片付けしろや」

 

 ただ女子会していただけなのに結果として何故か株を下げられたセラさんは納得がいかず何度も説明するも犬神さんは半笑いで返してくるのでセラさんはブワッと一人で泣いた。

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