第28話 酔いどれエルフとクリスマスクリスマス飲み

 本日、朝から犬神さんが何処かに電話をかけている。そして犬神さんの部屋に凛さん、ディアナさん、さらには恵さんとその旦那さんとお子さんもやってきた。

 

「一体これはなんなんだ? 誰かの誕生日会か?」

「あぁ、まぁ俺とかお前には全く関係ない宗教関係者の誕生日っちゃー誕生日だけど、日本独自のお祭りの一つ、クリスマスだ。んで、クリパを俺の部屋でする事になったから今日食べるご馳走やら飲み物やらの手配をしてたんだよ」

 

 セラさんの住まう世界においてホームパーティーは割とよく行われていた事だったので全然不思議に思わなかったのだが、昨今ではここまでご近所仲がいい事はほとんどない。それも東京23区内のマンションでこれなので稀も稀。

 

 みんな食べ物や飲み物を独自に用意してきて、遅れてやってきた「たっだいまー! ケーキ様の到着だぜぃ!」

 

 とんでもないデカいケーキがリビングに置かれ、犬神さんが「ダンタリアンご苦労。あと俺のゲーム部屋にアレを置いて食事にしましょう」

「「「「「「はーい」」」」」」

 

 斉藤夫婦、凛さん、ディアナさん、ダンタリアンさんがそれぞれ何かを置きに行くのでセラさんは気になってゲーム部屋に入ろうとしたが犬神さんに襟首を引っ張られ「お前さんはダメ」と止められる。

 リビングの椅子だけだと足りないので犬神さんの仕事用の椅子やゲーミングチェアもリビングに集めて食事が始まった。

 このマンションの長とも言えるダンタリアンさんがビールの入ったグラスを掲げて乾杯の音頭。

 

「ウェーイ! じゃあドランクレジデンスのクリパ2023、今年も凛ちゃんが参加していることにかんぱーい!」

「姉御ぉ、それなしぃ! 毎回クリスマスまで彼氏持たないんだもーん!」

 

 乾杯! と大量のご馳走、お酒、ジュース、お菓子と……セラさんはいまいち今、何が始まっているのか分からない。斉藤夫婦の子供達も可愛いしみんな笑顔だ。そしてみんながいるからか犬神さんもいつもより優しい。

 

「チキン食べる人!」

 

 はいはーい! と手を挙げる中でセラさんも手を挙げる。「わ、私もこのでっかいチキン食べたいぞ!」と誰だか知らないどこかの宗教の開祖に感謝した。

 

「ウェーイ! 犬ちゃん、シャンパン飲みてー!」

「おう! 開けろ開けろ!」

 

 犬神さんの普段飲んではいけないお酒達が開栓されていく。犬神さんは斉藤夫妻に山崎の18年をお勧めしている。ミートボールスパゲッティーをもふもふと食べている凛さんが「犬神さーん。ディアブロビール開けていいですか?」「どうぞ」とまさか、まさかそんな事があるのかとセラさんも聞いてみた。

 

「犬神さん、バランタインの30年っての」

「のむか?」

「……いえ、私はこのビールでいいぞ」

「そうか? 遠慮すんなよ。ほら、今日くらいだぞ。こんな出血大サービスすんの」

 

 そう言って犬神さんはロックグラスに成型した氷とトクトクと超高級ウィスキーを入れてくれる。

 おかしい。この祭、もしかして……今晩でセラさんは追い出されるんじゃないかと邪推していた。ヤバいヤバいヤバい! セラさんがかつて勇者達と旅をした時、激戦地だというのにセラさん達をご馳走でもてなしてくれた砦があった。皆気さくで、楽しい宴だった。セラさん達が砦を出た三日後、砦は魔王軍に落とされた。人間とはガチでヤバい時、ヤバいレベルの宴をするのだ! とセラさんは人間という存在を随分間違った風に捉えていたのだが……


「ではではみらさーん! 犬ちゃんの秘蔵の酒で酔いもいい感じに回っらと思いまふがー。ケーキ食おうぜちくしょう!」

「そうね。ダンタリアン、今のあなたに刃物を任せると危ないから私が切るわね」

 

 どーんとケーキを切り分けていくディアナさんと犬神さん。チョコレートプレートやマジパンの人形を斉藤夫妻の子供達のケーキに乗せて、セラさんの分も苺が沢山のった大きなケーキを犬神さんが渡してくれる。

 

「や、やはり今日で私はお役目ごめんなのか! 犬神さん!」

「何言ってんだお前、役目なんか元々ねーだろーが」

 

 と、犬神さんに言われたのでセラさんはブワっと泣きながらケーキを食べる。斉藤夫妻の子供に「お姉ちゃん悲しいの? 牛乳飲む?」「大丈夫? お姉ちゃん?」と慰められるので「飲む! マリブで割ってくれると嬉しいぞ」とミルクカクテルを幼稚園児に所望。

 ご馳走とお酒をたらふく飲み、そしてシメのケーキまで出されデザートカクテルは皆との別れの意味を感じていたセラさん。そんなセラさんを犬神さんが面倒くさそうに見ると、「んじゃそろそろ。仕上げしますか?」コクンと皆頷き、セラさんを除く大人達が犬神さんのゲーム部屋に向かう。

 いよいよ追い出されるのかとセラさんは思っていると、みんなが何やら箱を持って戻ってきた。

 

「サンタさんは? サンタさんいないの?」

「サタンがいるのか……?」

 

 セラさんがマジ、意味わかんねーという顔をしていると、サンタ、サンタと言っている斉藤夫妻の子供達にダンタリアンさんが、

 

「サンタちゃんさ! ちょ、さっきまで来たんだけどね。犬ちゃんの部屋にいるとサンタちゃん酒飲みたくなるからって、ソリもさー最近飲酒運転うるさいらしくて、ここで飲んでたら世界中の子供達にプレゼントあげられないから、このままドロンでござると行っちゃったんだよね! 全部犬ちゃんのせいさ」

「は? ダンタリアンテメェ!」

「犬ちゃんのばかぁ!」

「犬ちゃん、サンタさぁん」

「えぇ、なんかごめんなさい」

「こらこら! 犬ちゃんは二人の為に忙しいサンタさんを呼んでくれたんだから、なんていうのかな?」


 セラさんは話についていけないので……

 

「なんて言うんだ?」

 

 二人は犬神さんを見て、「「犬ちゃん、ありがとうございます」」と頭を下げるので、セラさんは「なぜお礼……?」と疑問を浮かべる中、ぱんぱんと手を叩いたのはディアナさん。

 

「じゃあ、みんな用意……サンタさんがくれたプレゼント交換しましょ。玲亞ちゃんと玲緒くんはサンタさんにお願いしたプレゼントね」

「わーい! ディアナお姉ちゃんありがとう」

「ディアナちゃんありがと」

 

 大きな玩具とヌイグルミをもらって嬉しそうな二人、そんな中、きよしこの夜を歌いながら何やら箱が右から左へと流れてくる。セラさんは何これ? と思っていると歌が終わる。

 

「じゃあ今持っているプレゼントがサンタさんからのプレゼントです!」

 

 がさごそと箱をみんなが開ける。「うわ! バカラのグラスだ! いいのかいこんなのもらって……」斉藤さんの旦那さんがそう言うのに続いて、ディアナさんの箱には「ロストチャイルド! う、嬉しい!」高級ワインが入っていたり、「ギャハハハハハ! ちょ、ペットボトルウィスキー40L分って、くそウケる!」とダンタリアンさん、恵さんは「あら、カクテルのセットね。あなたこれで今度何か作ってあげますよ」と、どうやらお酒に関わる物が入っているらしい。凛さんは「メーカーズマークのブラックラベル……未開封です。初めて見ました」犬神さんが開けた箱の中「やたら重いと思ったら缶つまがめっちゃ入ってる。助かるわー」と、空気に飲まれていたセラさんにみんなの視線が注目する。

 

「あ、開ければいいのか? どれ……ん? なんか陶器の大きなコップが入ってる。なんだこれ? この刻印はエルフか?」

「ビアマグだよ。ビール呑む陶器のジョッキ。メリークリスマスセラ、実はみんなにプレゼント考えてもらった結果それになった」

 

 クリスマスという催しについてちゃんと説明されるとセラさんは再びブワッと泣き出す。追い出されなくて良かったーという気持ちと、みんなにこんなによくしてもらっている事に、

 

「こ、これでビール呑むぞ!」

「おう、飲め飲め。今日は潰れても大目に見てやんよ」

 

 クリスマス毎日来いよとか思いながら、セラさん初めてのクリスマスは最高の思い出と共に明けていく。

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