第24話 酔いどれエルフとサバゲーの打ち上げ

 セラさんはハイエルフの持つ固有スキルにて敵に囲まれている事を既に察知していた。しかも敵は五人……セラさんの腕には重い金属の塊、アサルトライフル。これが人の命を奪う重さかと思いながらセラさんは、後方5時方向にいる敵に銃口を向け引き金を引いた。

 

 バババ!

 

 見た目に反して地味な音。そして一人敵を葬ったセラさんはすぐに前を向く、今の戦闘で自分の居場所がバレたのだ。前方2時方向、同じく11時方向。

 

 バババ! バババ!

 

「あと二人っ!」

 

 セラさんは物陰に隠れるのをやめて飛び出した。やぶれかぶれの特攻作戦。それに呆気に取られた一人に向けて引き金を引く。あと一人……そのあと一人が姿を現した。醜悪なマスクをつけたロングヘアの戦士。サブマシンガンを構え口元は笑っている。

 

 お互いの銃口から放たれる弾。二人は走りながら引き金を引き続ける。一発。一発当てれば終わり。

 

 カチッ……カチッ……セラさんのアサルトライフルが弾切れになった。「しまっ……」がしかし、奇跡が起きた。ロングヘアの戦士のサブマシンガンもまた弾切れ。お互いマガジンを替える暇はない。腰に装備しているハンドガンを抜いた。

 

“バン!“

 

 その弾はセラさんの丁度額に当たり……セラさんは自分が撃たれたという事を理解しながらゆっくりと全てが終わった事を少々の後悔と共に意識がブラックアウトしていく。

 

 

 そして時間は八時間前に戻る。

 

 

「もしもし、私ですが? さばげぇ? なんですかお魚の何かですか? 明日の6時に集合、意味が分からないですよダンタリアンさん」

 

 と、セラさんはお風呂後のストレッチ中にかかってきたダンタリアンさんの電話が終わった後、ブランデーを煽りながら音楽を聴いてまったりしている犬神さんに尋ねてみた。


「犬神さん、犬神さん、さばげぇとは一体なんなんだ?」

「は? なんだって? お前サバゲーすんのか?」

「ダンタリアンさんが明日6時に迎えに来るというのだがなんの事やら」

 

 グラスから手を離すと犬神さんは席を立つ。そして答える代わりにセラさんの前にガシャンと何やら物騒な物を置いた。

 

「い、犬神さん……なんだこれは……これはあの……」

「AK47、世界一人を殺した銃だ。お前にかしてやる」

「犬神さん、こんな物で人を殺したのか?」

「は? サバゲー用の電動エアガンだ。BB弾もバッテリーもあるからもってけ!、あとゴーグルしっかりつけて、ルールを守れよ」

 

 セラさんはエルフの叡智を超えたこの世界のインターネットでググってサバゲーがなんたるものかを調べ……


「せ、戦争ごっこですと! 実にけしからんぞ! 戦争というものがいかに愚か極まりないものか!」

 

 と翌日キレ散らかしてみたけど、302号室のダンタリアンさんに半ば拉致されるようにタクシーに乗せられてセラさんは山奥にある妙な場所へと連れて来させられていた。そこには迷彩衣装に身を包んだゲリラのような連中で溢れていた。セラさんのかつての記憶が蘇る。

 

「こいつらの目……傭兵崩れだ……」

 

 戦争や魔物の討伐時に集められる時は無双の強さを誇るならずもの集団。されど一度平和な世になると連中は王国兵も恐れる賊となる。犬神さんに渡されたトイガンで撃ち合いをするゲームに興じてきたとは思えなような面構え……


「ダンタリアンさん! えらい所に連れてきてくれたな!」

「いやー、知り合いのサバゲーマーに可愛い女の子連れてきてって言われたからさー! 終わった後の打ち上げただ飲みできっから日頃運動してなセラちゃんにもいいじゃん! さぁ、頑張ってー!」

 

 ※サバゲー女子はモテる。というかサークラがよく起きる。セラさんが見渡すと確かに数人女子も参加しているようだ。ガチガチの迷彩フル装備の人もいれば、ピンクの迷彩でファッショナブルな人、何しにきたんだというメイド服の女の子。そんな中でダンタリアンさんは黒いシャツに迷彩のパンツ。強調される胸にガンホルダーをつけてゴーグル、小さいヘルメットを装備。

 

「セラちゃんもさっさと着替えて着替えて」

「えぇ……」

 

 セラさんは迷彩衣装など持っていないので、レンタルする事になる。意外と高い……さらに犬神さんに渡された電動ガンに問題があった。

 

「ちょっとこれ威力がおかしいから、減速アダプターをつけてください」

 

 という事で異様にレンタルするものが嵩張る。セラさんは一般兵みたいなモブ衣装に犬神さんのカラシニコフとマカロフを装備し、、鏡に映る自分を見て……

 

「まさか私が忌み嫌っていたゲリラみたいな格好になるとは思いもしなかったぞ」

 

 そんなセラさんの初サバゲーはフラッグ戦。要するに相手を全員倒すか、相手の敷地にセットされている旗を取った方が勝ち。10対10で戦うらしい。ダンタリアンさんとは味方だった。セラさんは一番ホットした。ダンタリアンさんと敵同士だと何をされるか分かったものじゃない。

 

“フラッグ戦スタート! GOGOGO!“

 

 どうやら始まったらしい。戦争のない平和な国でなんで戦争ごっこなんてするんだろうかと思っていると、ダンタリアンさんが撃ち抜かれた。

 

「ぎゃあああ! ヒットぉおおお!」

 

 と言って準備をしたりする場所に戻っていく。セラさんは疑問だった。案外ダンタリアンさんはこういう勝ち負けに拘るタイプだと思っていたのだが……誰よりも早く負けたのに喜んで下がっていった。

 ダンタリアンさんの代わりに頑張らないと……何か、何かがおかしいとセラさんは本能が教え、控えのブースを見ると……

 

「だ、ダンタリアさんめ! 飲んでやがる! 私たちが戦う様を肴にして……」

 

 そう、ダンタリアンさんは最初からサバゲーなんてやる気が一切なかった。本来飲酒厳禁のサバゲーのエリア内、貸切により許された超背徳行為。飲酒した時点でプレイに参加する事はできないが、この生の戦争ごっこを肴にダンタリアンさんの獣のような縦割れした瞳孔が大きく開く。

 

 撃ち合い、相手が倒れ、仲間が倒され……なんでか分からないが屈強なサバゲープレイヤーの人たちがセラさんを守ってくれる。

 

 ……結果、セラさんはたった一人。残されてしまった。そして、相手プレイヤーのつよつよサバゲー女子に屠られる。

 

「それではダンタリアン姐さんが連れてきてくれた超美女、セラちゃんの奮闘に乾杯!」

 

 かんぱーい! と何ゲームか終えて疲れたところで打ち上げが開始された。ピザや唐揚げ、ハンバーガーなんかだけじゃなくサバゲーマーらしくレーションなんかも用意されている。

 

「んっんっん! プハー! 美味いなこのビール!」

 

 よく冷えたバドワイザー、セラさんは何を食べようかなーとるんるん気分でいると、先ほどセラさんを射殺した……もといヒットさせたサバゲー女子がやってきた。

 

「さっきは惜しかったね? 初心者なんだって? 凄いね! 私は来栖!」

「セラだ! いや、来栖さんの強さは中々あれで人外じみていたぞ」

 

 握手を求められたのでセラさんも快く握手する。セラさんのレンタル衣装を見ながら、持ってきたトイガンを見て、

 

「しかしいい銃を使ってるけど、それはセラさんの?」

「いやいや、これは私が居候している犬神さんの物だ」

 

 いきなりセラさんに男の影を感じ、男子サバゲーマーがグシャリとビールの缶を潰す。そんな様子にダンタリアンさんはうっひゃっひゃと酒が進む。なんてご近所だと思いながらセラさんは、

 

「犬神さんは男性だが私の恩人であり、恋人でもましては旦那でもないぞ。まぁエルフの私と人間の犬神さんだと寿命の問題もあるしな」

 

 そう言ってセラさんはピザを一切れパクリと食べて、バドワイザーで流し込む。このなんちゃってアメリカンスタイルが中々気に入った。ダンタリアンさんはきたばっかりで飲みまくっていたので随分泥酔している。お寿司と唐揚げとピザとなんという食い合わせの悪そうなご馳走を楽しんみ、セラさんのお腹も随分満足したところで来栖が水筒を持ってきた。

 

「セラ、シメにクラムチャウダーはどう?」

「クラムチャウダー? クリームシチューみたいなやつだな! いただこう」

「セラさえよければウチのサークルに入らない? みんな普段は仕事しててこうやってたまに集まってゲームしてるの。私も普段は冴えないOLだし」

「なるほど、まずはこのクラムチャウダーを」

 

 それは熱々で、具材もしっかり煮込まれていて実に美味かった。セラさんはなんだか、最初は傭兵崩れのように思えていたこのサバゲーサークルの人たちが、冒険者ギルドにいる人たちのように親しみを感じるくらいにはなっていた。女性とあまり話した事がないのだろうか? セラさんに赤面して延々と自分の銃の話をしている人にもセラさんは1ミリも分からないながら相槌を返していた。

 セラさんは酒癖は悪いが基本的に誰とでも仲良くなれるハイエルフである。エルフ故に見てくれだけはやはりいい。結果として、このサバゲーサークルの男性陣の大半のハートを射止める事になりそれがこのサークルを終焉に導く事になるとはセラさんには知るよしもなかった。

 

「それにしてもダンタリアンさん、飲みすぎだ! 帰るぞ! タクシーをまた拾わないといけないが、こんな山奥にタクシー来るのか……」

「セラちゃん、俺酒飲んでないし、車で来たから送るよ!」

「おぉ! それはかたじけない」

 

 奥手な彼に犬神さんのマンションまで送ってもらい、ダンタリアンさんを部屋に運ぶと犬神さんの待つ部屋に戻ったセラさん。エアガンを綺麗に拭いて犬神さんに返し、

 

「サバゲー、実に面白かった」

「そりゃ良かったな」

「そこで犬神さん、私はサバゲーサークルに入ろうかと思うんだ」

「別にお前さんがやりたければいいんじゃない、しばらくは俺のエアガン貸してやるよ」

「本当か! ありがとう犬神さん、じゃあ、みんなのグルチャに……ん? グルチャが解散してる。サークルホームページを……亡くなってる」

「セラ、お前さ。何やったの?」

 

 セラさんが帰った後、サークルの姫ポジションの女子がゴネ、セラさんとダンタリアンさんを送った男子は他男子から詰められ、それはそれはケイオスな事となり、ゆくゆくはこうなる運命であった社会人サバゲーサークルだったが、セラさんが来た事がカンフル剤になり一夜にしてこの世から消滅した。

 当然犬神さんはセラさんが何かやらかしたと疑いの目を向けるので……

 

「ち、違う! 私はみんなと楽しくサバゲーをしただけだ! 信じてくれ犬神さぁああん!」

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