第15話 酔いどれエルフと町内バス旅行と3人の光の呑み友

 本日、セラさんは小さな旅行バックを片手に準備を終えていた。本日は基本老人しか参加しない町内バス旅行の旅、お寿司食べ放題、ぶどう狩り、そしてお土産付きで参加費用5000円。

 総勢二十人だ。

 

「犬神さん、これ一緒に行こう!」

「いかねぇーよ。ジジババの祭典だろが」

 

 という一連の流れがあったわけだが、セラさんには光の飲み友達がいる。年齢不詳、職業不詳、なんなら種族すら不詳。魔性の美女302号室のダンタリアンさん。ヴァンパイアの真祖でありながら日本という暗黒砂漠の社会を生き抜く502号室のディアナさん。5000円? 丁度パチスロで勝ちましたもので! 私からすれば相当な贅沢ですよ。と104号室からは貧乏学生の凛さんが来てくれた。

 

「うぃー! はよー! ちゃんセラ」

「おはようセラ」

「セラちーん。今日は寿司食いまくってやりましょうや!」

 

 セラさんはこの三人と歩くと白昼夢を見ているようだった。こうして勇者、僧侶、戦士。そして魔法士としてハイエルフのセラさんがいた。さながら、ラストダンジョンに挑戦するような気持ちで、“町内会様“と書かれた大きな観光バスに乗る。

 車は何度か乗った事があるが観光バスが初めてのセラさんは感動を隠しきれない。

 

「うおー! こんな大きなバス乗った事ないぞ! ベヒモスくらいの目線じゃないか!」

「えー、大阪とか福岡とか行く時に高速バスとか使わねーの?」

「ダンタリアンさん、私は犬神さんのマンション周辺5キロから出た事ないからな!」

「私はまぁ、あるわね」

「自分は何年か前にJK時代の修学旅行で乗ったなー」

 

 ほほうと、セラさんは目線がめちゃくちゃ高い観光バスに感動していると、飲み物が配られる。

 

「ビールの人、お茶の人、オレンジジュースの人、教えてくださいねー!」

 

 町内会長がそう言って配ってくれる中、明らかに見た目は若いセラさん達は皆、ビールを所望。

 

「こりゃ、今年は綺麗どころが四人も来てくれたんだなぁ」

「お父さん、それは私が綺麗じゃないって事?」

 

 だなんてお年を召した方々の話に花が咲くが、この中で一番の高齢はヴァンパイアのディアナさん、次点でセラさんだろうという目算。

 ひとまず、バスの出発と共に、

 

「「「「かんぱーい!」」」」

 

 んぐんぐんぐと、バスの中で飲むビールのまた新鮮な事。

 

「ぷへー! うんまぁ! 最高じゃんね! おかわりぃ!」

「ダンタリアンさん飛ばしすぎだろ!」

「セラちゃんさぁ、ビールなんてピスと一緒だよぉ、いくら飲んでも酔えねぇって!」

「有名なセリフだなぁ、ところでダンタリアンさんっておいくつなんだ?」

 

 そもそも人間なのか? と聞きたくもあったが、のらりくらりと生きているダンタリアンさんが実年齢を教えてくれる事はない。

 

「えー、幾つに見える?」

「二十、四、五か?」

「セラちん、いやもっと言ってるっしょ? 姉御二十七くらいじゃない?」

 

 2本目のビールをふふんと言いながら飲んでいるダンタリアンさんを見てディアナさんが、ビールを片手にチョコがけ柿の種を見せて、

 

「食べる?」

 

 とテンション高めに見せてくれたそれにダンタリアンさんの年齢とかどうでもいいやとそれぞれ持ってきたオヤツ。もといおつまみを見せて!

 

「「「食べるぅ!」」」


 と、ダンタリアンさんはチータラ。凛さんはビッグポテトチップス。そしてセラさんが持ってきた物は……

 

「どうせみんなしょっぱい物ばっかり買ってくるだろうと予想していたんだ! 私が買ってきたのはポッキーだ!」

 

 ファミリーパックのポッキーを見せると、三人から「さすがはセラちん、エルフなだけはあるね」「セラちゃん、エルフすぎんでしょ!」「エルフ、ここに極まれりだなセラ」と言われ、それぞれ意味不明すぎるエルフ推しを受ける。

 

「なんか地味にいディスられている気がするけど、まぁいいか、私もビールお代わりお願いするぞ!」

「そんなに飲んで大丈夫セラちん?」

「大丈夫大丈夫、ビールなんて……」

 

 寄り合い馬車に乗りながら麦酒や葡萄酒を勇者達と煽った日々が蘇る。セラさんは、ビールをきゅっと飲んでから凛さんに話しかける。

 

「ところで勇者」

「誰が勇者だ! ディアナさーん、もうセラちんがガチ酔いしてんだけどぉ!」

「アクエリアスでも飲ませときなさい」

「いや、すまんすまん、ちょっと間違えたんだ」

 

 ポテチをパリパリ食べながらセラさんはそう笑うと、この光の飲み友の中でも未知数の怪物。セラさんをして魔王級の光の飲み友、ダンタリアンさんが、クリアアサヒの缶を「じゃじゃーん! 今から飲み比べたいけつー! わーぱふぱふ」と口でBGMまで語り、目隠しを用意する。

 

「要するにダンタリアンの姉御は私たちに目隠しして飲みくらべをさせたいんですねぇ、もうノリが男子学生ですよー」

「えー。でも凛ちゃんも好きっしょ〜?」

「えー、好きぃ! という事でトップバッターはセラちん行こう!」

「わ、私か? まぁ構わんが、流石にアサヒスーパードライとクリアアサヒの違いなんてすぐに分かるぞ! 全く違うからな!」

 

 目隠しをするセラさん、そんなセラさんにプシュとプルトップが外された缶が渡される。冷たい。温度では分かりそうにないのでセラさんは次に香り、そしてそれを飲む。

 

 ゴクゴクと、

 

「あぁ、美味い。が、飲み比べる必要もないぞ! これがクリアアサヒだ! そうだろう? 流石に口当たりがライトすぎる。スーパードライのビリビリとした感じがないんだからな! これぞエルフの叡智だ!」

「まぁまぁ、焦らないでセラ。どうせだからもう一本も飲んで決めなさい!」

 

 そう言ってディアナさんに渡された缶、これも冷たい。仕方がないので匂いを嗅いでからセラさんは再び口につける。

 

「そんな馬鹿な!」

 

 さっき飲んだ物と変わらない気がする。先ほどのクリアアサヒだと確信していたセラさんだったが、どちらかがスーパードライ。もう一度セラさんは思い出す。

 

「戦士が死の呪いにかかった時、右か左かで解呪を迫られた時を思い出すな。一つ間違えれば戦士は即死だった。あの時のように肌が粟立つよ」

「いや、それ流石に戦士の人可哀想でしょ。こんなバス旅行のお遊戯と……命をかけた大一番とじゃ……」

 

 ディアナさんの的確なツッコミを前にしても静かに集中しているセラさん、今まで飲んできたお酒の思い出を手繰り寄せるように、さながら記憶の旅に出るセラさん、最初に飲んだ方がクリアアサヒか、それとも後に飲んだ方がクリアアサヒか……グラグラとバスが揺れる。

 その時、ハイエルフが……笑った。

 

「クリアアサヒは最初に飲んだ方だ! 間違いない!」


 確信を持ってセラさんはそう言った。というか後に飲んだ方もクリアアサヒっぽいけど、二分の一だし当たったらカッコいいなとかそんな感じで選んだわけだが、

 

「ウェーイ! じゃあ目隠し取ってぇ! セラちゃん確認しちゃいなYO!」

 

 ダンタリアンさんの中々やばいテンションでそう言われ、恐る恐るセラさんは目隠しを取った。最初に飲んだ方は……

 

「クリアアサヒだ!」

 

 そう! セラさんは正解したのだ! そして後に飲んだ方を見てセラさんは呆然とする事になる。白と黄色の缶。それは最初に飲んだクリアアサヒの缶と酷似している。というか同じ缶なのだ。

 

「えっ? これは?」

「ギャハハハハハ! セラちゃん騙されてやんのー! ウケるー!」

「さすがセラちん、美味しい所持って行くねぇ」

「ププ……私は、可哀想だからやめなさいって……一応止めたのヨォ! でもセラがあまりにも真剣だから、ぷ!」

 

 要するに普通にセラさんは騙されていたわけだ。いつもならこらぁああ! と一言怒るくらいはしたかもしれないが、バスに乗っているみなさんが楽しそうにしているのでぐぐぐぐとセラさんは拳を握り締めて、

 

「こ、このかりはいつか返すからなぁ!」

「セラちゃん、エンゼルパイ食べる?」

「食べる!」

 

 年配の女性がくれたエンゼルパイをもしゃもしゃと食べてぐっと堪えた。バスツアーはお昼ご飯、お寿司の食べ放題へと向かうのだが、そこで一悶着あったりする。セラさんと光の飲み友達のバスツアーという冒険は始まったばかりなのだ。

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