第14話 酔いどれエルフとスタジアムグルメ飲み
※東京ヴェルディが2023年12月1日にJ1昇格しました。おめでとうございます。作中ではまだJ2時代に書いた物になります。ご了承ください。
「犬神さん、犬神さん。何故、この国はテレビに出ている人が結婚したり離婚したりすると話題になるのだ? まぁ、結婚は喜ばしい事だが、わざわざ離婚したとか報告要らなくないか? 罰ゲームか?」
犬神さんはブルーライトカットのメガネを外すとワイドショーを見ているセラさんを呆れたように見て的確な答えを答えてくれる。
「心底どうでもいいニュースな。テレビなんて見てるのは最近はお前みたいに異世界から来た奴か年寄りくらいだからな、それらに共通するのは珍しいか、加速する世界に置いてかれてるからか情報源がテレビしかないかんだよ。あと、芸能人専用の連絡用ツール見たいなもんだな。テレビなんて芸能人が面白いだけのクソ娯楽だからYoutube見てる方がまだマシだぞ」
「犬神さんは芸能人に何か恨みでもあるのか……」
犬神さんのお酒以外の趣味はスポーツ観戦とドラマや映画をみる事、お笑い芸人、アイドルなどは存在しなくてもいい職業だと前にも言っていたなと思うが、セラさんはアイドルの歌を聴くのも馬鹿馬鹿しいお笑い芸人の番組を見るのもわりかし好きだったりする。
それにしても、
「お腹空かないか犬神さん?」
「あぁ、そういえばいい時間だな、ワインや日本酒が美味くなるシーズンだが、今年最後のビアホールでも行くか?」
「いいな! コエドビールで乾杯だな!」
犬神さんとセラさんは着替えて、近所のビアホールへ、モデルみたいなハイエルフのセラさんと並んで歩いても食われない犬神さん、セラさんが毎度酒で失敗する度、迎えにくる犬神さんと近所でも有名なカップル認定されているが、犬神さんはもとよりセラさんも恋愛感情は皆無である。
「犬神さん、ビアホールのオツマミの征夷大将軍はなんだと思う?」
「そりゃソーセージだろうよ」
セラさんが何気なしにスマホをハンドバッグから取り出そうとした時、ひらりと紙が舞う。それを犬神さんが「おっと」とキャッチすると、
「サッカーの入場券?」
「あー、そういえば管理人さんがくれたんだ。犬神さんがスポーツ観戦好きだからと、まぁ犬神さんは部屋のプロジェクターで見るのが好きだもんな!」
ゴン! と間髪入れずに犬神さんがセラさんの頭をぶん殴る。「ぎゃああ痛い!」チケットは本日、もうすぐにキックオフ。犬神さんは目の前のビアホールを無視すると、手を挙げてタクシーを拾う。
「スタジアムまで」
「えー! 犬神さーん! ビアホールはどうするんだー!」
「黙れ、スタジアムに着いたらたらふく飲ませてやる!」
「でもソーセージが!」
「あー、それも心配するな」
今日は東京のチームと千葉のチームの試合らしい、そこで犬神さんが指をさす先、100円均一のダイソー。まさかダイソーのドライソーセージで我慢しろという事かとじと目で犬神さんを見つめるセラさんに犬神さんは110円手渡す。
「これでタッパー買ってこい」
「え……流石に私もハイエルフ……物乞いは」
「ええからいけぇ!」
「ひゃん!」
ポンとお尻を蹴り飛ばされてセラさんは少し苛立ちながらダイソーにタッパーを買って戻ってくる。そんな中でセラさんはとんでもない光景を目撃する事になる。
なんと犬神さんはすでにビールを飲みながら待っているので、
「あー! ずるいぞ! 犬神さん」
「それもって、あのソーセージ買ってこい」
千円札を2枚犬神さんに渡されてセラさんは『喜作』という屋号のソーセージを買う列に並ぶ。そこは異様な光景だった。みなタッパーを持っているのだ。そしてお金を払いタッパーにみんな入れてもらっている。セラさんの番がくると、一人前600円、2000円渡されているので、
「さ、三人前を貰おうか!」
「はーい、ありがとう!」
どっさり! セラさんは重いとすら感じるその量。これらのグルメは値段の割に量がーという問題があるが、ビアホールで頼む価格帯で恐らく倍近くあるソーセージ。
戻ってくると、犬神さんがビールをセラさんの分も持って待っててくれる。それにセラさんは涙が出そうになる。
「犬神さん! 買ってきたぞ!」
「おーよしよし、よくできました。じゃあスタジアム入ろうぜ。喜作は千葉のフクダ電子アリーナとかで売られてる千葉の有名なスタジアムグルメな。タッパー持っていくとおまけしてくれんだよ。紙皿使わない分エコだしな」
犬神さんにそう説明されて頭を撫でられるセラさん。周りから見れば甘々なカップルに見えなくもないが、犬神さんからすれば人語を解するペットくらいの感覚、セラさんは犬神さんの絶妙に心地いなで方にバカにされている事に気づかずスタジアムの席に着く。
「犬神さんは東京ヴェルディとジェフフナイテッド千葉。どっちのファンなんだ? 私は断然東京だからヴェルディを応援するぞ!」
「いや、別にどっちも頑張ってプレイしてくれればそれでいい。俺はどこか好きかじゃなくて、スポーツ観戦が好きなんだ。スポーツや音楽程人間たらしめる物はないから、カオル君も言ってたけど人間の文化の極みだ」
キックオフに犬神さんは「ガンバレー」と小さい声で両チームに激励をして、セラさんを見るとビールを見せる。
「じゃあ乾杯と行くか! セラ」
「そおこなくちゃ! 乾杯だ犬神さん」
ごくごくごく、紙コップのビール。こういう場所で飲むからこそ、
「ぷひゃああああ! うまいぞ! この野郎!」
「どういうキャラだ? でも美味いな。セラ。お前の食べたがったソーセージ、好きなだけやりねぇ」
いただきますと片手で拝んでからセラさんはソーセージをぽきんと食べる。それに目の色を変えて、
「うまーい!」
「だろ? ビアホールもいいが、サッカー観戦しながらのビアガーデン気分も悪かないな」
セラさんの知る限り、最強クラスの酒豪・犬神さん。とはいえ、一杯のビールをゆっくり楽しみながら両チームの攻め、守りとハラハラして、少年のような目で見て、たまに!
「いけ! いまだ! あー、あのキーパー上手いな!」
と試合を楽しんでいる。セラさんは、この世界の人間の楽しみ方の無限さにエルフという自分は心底あっているなと思う。元の世界では全てを見て、全てを知ったと自負していたが、どうやらそれは井の中のセイレーンだった。
郷に入れば郷に従えという言葉に倣い、セラさんはメガホンを持つと、ビールをがぶ飲みし、叫んだ。
「頑張れ負けるなー! だが、井の中にいるからこそ、セイレーンは空の高さを知るわけだ!」
「何言ってんだお前……」
「私の世界の格言だ。私はまだまだ知らない事が多い。このビールとソーセージの組み合わせとかな」
ソーセージをとビールの組み合わせの悪魔的な事この上ない事、犬神さんですら「まぁ、違いねぇ」と、そして目の前では生のサッカーが繰り広げられている。エアコンの効いた部屋で観るのとはまた違ったその光景に、セラさんは飲んだ! 飲んで、飲みまくった!
どっちがどっちなのか分からなくなった時、ついにシュートが決まる!
「おぉお!」
珍しく犬神さんが興奮している。それにセラさんは手を向けてハイタッチ。普段の犬神さんなら多分しないであろうが、その他サポーターもハイタッチするので、その場の空気に飲まれて犬神さんとセラさんもハイタッチ。
「犬神さん、生のスポーツはいいものだな!」
「あぁ、たまには観に行くか?」
「そう……れすねぇ、あり?」
セラさんの視界が回る。そして夜天の空とはこんなにも美しいものなのかと思って気がつくと、景色が動く。いつもの悪いパターン、犬神さんに背負ってもらって、この後出て行けと言われるのだ。酔いがまだ抜けない中でセラさんは、
「あの、犬神さん、そのぉ、申し訳」
「気分はどうだ? 水飲むか?」
そう言ってペットボトルの水を差し出してくれる。普段キレッキレのドSな犬神さんが、今日は優しい。スポーツ観戦効果で大目に見てくれているらしい。
「うん、飲む」
あぁ、色んな意味でサッカー最高だなとセラさんは思って夢の世界へと旅立って行った。犬神さんはセラさんを背負ったままマンションの部屋に戻ろうとしたところ、マンションの大家兼管理人さんが声をかけてきた。
「犬神さん!」
「大家さん、サッカーありがとうございました。めちゃくちゃ楽しめましたよ」
「そう? 良かったわ。これ、孫がアイス買ってきてくれたんだけど、私にはちょっと多いからお裾分け」
「ブルーシールですか! わぁ、大好きです」
大家さんにお礼を言って部屋に戻ろうとした時、このマンションの別の住人に声をかけられる。
「いーぬーちゃーん! あーそーぼー!」
「帰れダンタリアン、近所迷惑だろうが」
「いいもん持ってんじゃん。それでも食べながらさ、どうせセラちゃん、酔い潰れてんでしょ? さぁ、上がって上がって」
「俺の部屋だろうが」
そう、夢の世界にいるセラさんはシメのブルーシールアイスを食いそびれる事を永遠に知らないのである。
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