第10話 酔いどれエルとエルとコンビニのホットスナック呑み。光の飲み友6 疲れしOL、小百合さん登場

「何故かコンビニのレジ前に置いてある揚げ物は夜に食べたくなるのは何故なんだ?」

 

 そんな事誰も知らないし、全員が全員そういうわけじゃないんだろうがテンションの上がったセラさんはホットスナックを数種類購入、そしてビール……ではなく、

 

「やはりこいつらに合わせるのは発泡酒の方がよく合う気がするな。そしてロケーションは夜の公園がベストだろう」

 

 ふふんと鼻を歌いながらセラさんは近所の小さな公園に向かう。そこでブランコに乗りながら、あるいはベンチに腰掛けながら時折そこには会社と家庭で擦り切れたようなサラリーマンが先にいたり、カップルの別れ話が行われていたり、不良が喧嘩をしていたりするが、それらはお互いの世界の棲み分けを理解している。サラリーマンとは面識があれば会釈する程度の間柄ではあるが、話をする事はない。

 

 が……今回、ブランコを選んだセラさんの隣の空いているブランコに乗るOL。しばらくブランコを漕いでいる。最初こそセラさんは隣のブランコが動いている程度に思っていたが、そのOLはこの公園の法律を平然と破ってきた。

 

「私ね……今日失恋したの」

「…………」

 

 突然の事に何言ってんだこいつという気持ちと共に、セラさんは自分の事を棚に上げてこの女はかなりヤヴェ奴だと確信した。

 刺激をしてはいけない、かと言って無視をしてはいけないと思ってしまった。

 むしろこの手の輩は徹底的に無視してその場から立ち去るのが一番だったのだ。

 しかし、セラさんはハイエルフであるというプライドが、この世界ではクソの紙程の役にも立たないのにこの場から離れるという選択肢を取らなかった。

 

「あーあ、百年の恋が終わっちゃった……」

「そ、それは残念だったな」

「ねぇ聞いて! 聞いて! あっ、もしかしてお酒飲むのね! 丁度私も買ってたから乾杯しましょ!」

 

 ストロング系酎ハイのロング缶を3本。セラさんはここでも自分の事を棚に上げてこの手のお酒をおつまみ無しで購入する奴はヤヴェ奴だと思う。

 が、お酒を飲めれば何でも良かった。

 

「乾杯!」

「かんぱーい!」

 

 んっんっんっと発泡酒で喉を鳴らすとセラさんは、

 

「くぅ、美味い!」

「貴女よく見ると凄い美人ね。話し方といい、コミケ帰り?」

「まだコミケは始まってすらいないだろうが、私はアレだ。ハイエルフだ。理由あってこの世界に飛ばされて今は親切な犬神さんの所に居候中なんだ」

 

 最初に食べるホットスナックはと袋を覗いてセラさんは、アメリカンドッグを取り出す。

 

「この食べ物に出会った時、本当に衝撃を覚えたものだ。これ合法なのかと思ったくらいにだな。ただでさえ美味いのにケチャップとマスタードをぶっかけて食べるとか正気の沙汰とは思えなかった!」

「それ、北海道の方だと砂糖かけて食べるのよ」

「馬鹿な! 砂糖だと……いや、ありなのかもしれないが……いやそんな……」

「貴女可愛いわね。恋しちゃいそう」

「ぶっ!」

 

 セラさんは口にしていたアメリカンドッグを吐き出すと隣の女性を見る。とりあえず発泡酒で喉を潤してから、

 

「む、自暴自棄になるのはよくない。お前は今日、失恋した事で心が弱っているだけだ。まぁなんだその相手の男ともう一度あって話してみてはどうだ?」

 

 人間よりも上の立場であるといまだに思っているセラさんはそんな風に上からそれっぽい助言をしてみると、

 

「えぇ、男って? 私が失恋したのは女の子よ。家の前をいつも通る女子高生の子」

「あっ……こいつダメな奴だ。というかそもそもお前も女だろうが」

「貴女って古い考えなのね? 今は同性愛なんて普通よ」

「……いや、エルフにもそういう連中がいたような気がするが、何なら私も何回か告白されたような気がするが……にしても子供はダメだろう」

「私は小百合、貴女は?」

「私か? セラだ」

 

 そう、ヤヴェ奴に名前を教えるという愚か極まりない悪手をセラさんは取ってしまった。この手の人間の厄介さはセラさんが元の世界で戦ってきた魔物達とは比べ物にならないくらいのしつこさと面倒臭さを誇る。

 

「セラ、セラかぁ。いいわね。ほらほら呑んで呑んで」

「お、おう……自分のペースで呑みたいのだ。次は唐揚げだ」

 

 爪楊枝で独特の味付けの唐揚げをプスリとさして口に運ぶ。唐揚げ屋さんの唐揚げでもなければスーパーの唐揚げでもないコンビニの唐揚げは実にジャンクだ。

 

「ここに発泡酒を引っ掛けると……あぁ、たまらん」

「私にも一個ちょうだい、あーん」

「し、小百合は仕方がない奴だな。一個だけだからな」

 

 パクリと食べて「おいひー」と小百合はテンションが上がったのか、いつしかブランコから降りてセラの後ろに。セラさんの髪、肩とペタペタと触れる。

 明らかにスキンシップが増えてきているのだ。

 

「小百合、少し距離が近いし何だか私に触れすぎだ。自重しろ」

「ねぇねぇ、どうして女の子同士の愛の営みの事を百合って言うか知ってる?」

「知らないし、そんな風に言うのか? お前の名前も小百合だな」

 

 次はいよいよセラさんの中でメインディッシュ。分厚いハムカツを取り出す。ソースではなく和がらしで食べるのが色々試してみて一番美味しい食べ方だったから。セラさんの用意した最後の発泡酒のプルトップをプシュッと開ける。

 

「男性同士の愛の営みをバラ。赤い花になぞらえている事の対義として白い百合にしたとか、かつて女性同性愛者達の投稿する場所を百合族と言ったからとか諸説あるらしいけど、私はジョンラスキンの評論。胡麻と百合からだと私は思うの。セラの魅力を引き出せるのは、男なんて暑苦しい生き物なんかより、女の子同士だと思うの。例えば、私とか?」

 

 こいつすげぇヤヴェ奴だなと思いながらセラさんは元の世界で戦ってきた数々の強敵達を思い出す。岩の体を持ったギガンテス、獣系モンスター達の祖、ベヒモス。バンデモニウムの体現者デーモンロード。

 そんなモンスターが裸足で逃げ出すくらいのヤバさを感じながらサクリとハムカツにセラさんは歯を入れてかじる。

 

「私の魅力を引き出すのに他者が必要だとは私は思わないぞ。それに例えば、小百合は今の私を見て私を口説いてくれているんだろうが、例えば私のこの顔が、身体が炎で焼け爛れていたとしても同じ事が言えるか?」

「……それは……当然言えるわよ」

「ふん、嘘だな。犬神さんが言っていたぞ。酒を呑んでいる者の言う事なんて大体嘘だとな。だから嘘なら嘘なりに今を楽しめればいいじゃないか、私には小百合のような性的嗜好はないが、真っ直ぐな好意。嫌ではないぞ」

 

 和がらしをつけたハムカツをバクバクと食べて、発泡酒を流し込むように飲み干すと、セラさんはコンビニのビニール袋にそれらゴミを入れてそこから立ち去る。

 

「ではさらばだ! (もうこの公園にはしばらく来れんな)」

「セラ……しゅき」

「ん? 何か言ったか? というかストロング缶、飲みすぎるなよ? さて、私はレジ横で買ったチロルチョコをいただくかな」

 

 そんな全てを否定するわけでも完全に受け入れるわけでもないどっちつかずな事を言ったセラさんは、これより小百合の推しとなる。

 苦しくも新しい光の飲み友を獲得した事になるが……彼女絡みで面倒な事に今後巻き込まれていく事になる。

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