第8話 酔いどれエルフのファミレス呑み・前編 光の呑み友5 505号室ヴァンパイアのディアナさん登場
「セラ、例の物は?」
「ディアナさん、ここに」
ガーリーな格好、そしてマストアイテムの黒マスクをした女性。もとい雌型のヴァンパイア。セラさんが居候している犬神さんの住むマンション、ドランカーレジデンスの505号室に住む。
国産というべきなのか……異世界ではなく地球生まれ、地球育ちのヴァンパイア。昼間はOL、夜はガールズバーで働くそこそこ苦労人のディアナ・スギモト。年齢は1000年を越えたあたりから数えていない。
趣味、お酒。
本日はセラさんとの女子会ならぬ飲み会、ディアナさんからすれば月に一度の楽しみなのだ。
二人の出会いは当然マンション。そのエントランス。セラさんの世界ではヴァンパイアは上級の魔物。ハイエルフである自分がなんとかしないとこのマンションの住民全員が大変な目に遭うとか思っていたが、尖った耳のセラさんを見て逆に化け物と悲鳴を上げられる。
「それにしても異世界にもヴァンパイアが存在しているとは思わなんだ」
「私は、エルフなんて創作物の存在がいるとは思わなかったわ。私からすればセラが異世界の住人なんだけどね。そんな事より、今日は楽しみましょう」
「うん、そうだな」
ヴァンパイアの容姿は美しい、そしてセラさんもまた見てくれはいい。そんな二人が並んで歩くと男女問わず振り返る。何かの撮影か? モデルさん? 海外の女優? そんな優雅で気品ある二人が向かった先は美食の園。
すかいらーく系列のガスト。
「いつ来てもガストはたまらないなぁ!」
「そうね。毎日、同じおかずのループ弁当から解放される月一の楽しみよ。貴賓溢れるスカイらーくマークに手を合わせておきましょ」
時間は午後13時45分、平日水曜日。有給を取ったディアナさんと半分ネオニートのセラさんの狙いは、平日ハッピーアワー。朝から向かわないのはモーニングメニューを回避する為、そして昼時の時間を少しずらすのもまたランチ客に迷惑をかけない工夫だ。
「ディアナさん、一万円まではタダだ」
「犬神さんには今度カレーでも作って持って行く事にするわ」
「ディアナさんのカレーはオーガ級に美味だからな!」
「何その表現、美味しいの? それにしてもその優待券凄いわね」
セラさんが持ってきた物はガストの株主優待券1万円分。犬神さんは色んな所に投資をしており、時折こういった株主優待を受ける。ガストはあまり行かないという理由でセラさんにくれた物だった。
「まずは何を飲む? 私はもちろん麦酒、アサヒスーパードライだな!」
「うん、私も同じ物をお願い。あとワインもボトルで頼んじゃおうか?」
「さすがはディアナさん、分かっているな!」
セラさんは異世界からの住人という事を思わせない程の手つきでタッチパネルを操作する。それはもう犬神さんの家で文明の利器に触れ、並の地球の住人より理解している事だろう。ボトルワインの赤とスーパードライのジョッキ、そして山盛りポテトに唐揚げ十個を注文。
「生ビールお待たせしました」
「ありがとう」
「どうもだ!」
「ワインの方は常温でしょうか? それとも冷やした物を? グラスはお二つでよろしいですか?」
「冷えた物をグラス二つでお願いする」
二人は店員さんに頭を下げて受け取る。美人にそう言われ、店員さんも少しだけ嬉しそうだ。店員さんがいなくなった事で二人はニンマリと笑顔になる。
「じゃあセラ、乾杯!」
「うん。ディアナさん乾杯だ!」
カツンとジョッキを合わせてグイッと二人は飲み干す。最初の一杯目の生ビールという物は異世界だろうが地球だろうが、挨拶みたいな物だ。
そして酔いどれな人が多いセラさんの居候するマンションの人達は口を揃えてこう言う。
「飲み会の最初の
「いやぁ、本当に……この世界の麦酒の美味しさと来たら神に献上できるレベルだ」
「ふふっ、セラは大げさね」
ちなみにセラさんがディアナさんにさん付けに対して、ディアナさんが呼び捨てなのは、単純に年齢的な問題。500歳を超える年齢のセラさんに対してディアナは1000歳を優に超えるヴァンパイアの中でも一握りの真祖なる存在。
が、そんな真祖も日本国にいれば税金を納める歯車の一つになり変わるのだ。
「しかし人を襲わないヴァンパイアというのに最初は戸惑ったぞ」
「もう、そういうのは数百年前に終わったのよ。結局、いかに亜人種が強かろうと、この世界の軍事力の前には滅ぼされるのは私らなんだから、それよりワイン開ける前にもう一杯ビールいいかしら?」
「遠慮せずにやってくれ! 私もお代わりするつもりだった」
“お待たせしました!“
猫型ロボットがやみつきポテトと唐揚げを運んできた。それをテーブルに取るとセラさんは、
「ご苦労!」
と、ロボット相手に普通に答える。
“ごゆっくりどうぞ“
「私の世界ではファミリアに従事させる者はいたが、こんな機械が奉仕をするなんて考えられん。いやはや、恐るべき技術だ。頂きます!」
やみつきポテトをフォークで刺すとマヨネーズをたっぷりつけて口に運ぶセラさん、その美味しさに頬が緩むので、ディアナさんは唐揚げを一口。
「少しニンニクを使ってるわね」
「大丈夫か? ペッ、するか?」
「慣れたわ。どこ行っても人間はニンニク好きだから最初は嘔吐した物だけど、裏返ったのかアレルギー反応も出ないし、なんなら今は好物の一つね」
「あー、ヴァンパイアがニンニク苦手なのアレルギーだったのだな。この世界に来て初めて魔物の弱点とかがそういう事ってのを知ったな」
「そうね。私も最先端医療を持つ日本でアレルギー検査してようやく知ったくらいなんだから」
二人がしばらくビールを待ちながらポテト、唐揚げとループしているが意外とビールが来ないので、
「ワイン開けましょうか?」
「うん」
コルクではなくキャップ仕様のガストワイン。グラスを地面につけたままグラスに触れずに待つセラさんに片手でディアナさんはワインを注ぐ。自分のグラスにもワインを注いだところで、
「生ビールお待たせしましたー!」
ファミレスあるある。間の悪いメニューの到着。だが、それはそれでいい。ビールが到着したなら、ワインは置いてビールを飲む。
「ワインは常温になってもそこそこ飲めるのがいいわね」
「冷やした物がぬるくなったら不味くなるんじゃないのか?」
ワイン好き達の言葉を聞いて思い出したようにセラさんが尋ねるが、グイッとビールを飲みディアナさんは語った。
「テーブルワインにそこまで考える必要ないわ。こういうワインの役割は私とセラの飲み会を飾る脇役なんだから」
ディアナさんは品がある。言葉から、そしてワインの作法からもっといい所にいたような雰囲気を醸し出しているが……
「ディアナさんは何故、犬神さんの国に? 犬神さん曰く、女の子が可愛い以外になんの取り柄もないクソみたいな国と言っていたぞ」
「そうね。でも、それ以上にあらゆる物があるこの国にいる価値はあるわね。気のあうセラにも会えたし、でも結局一番は食べ物とお酒が美味しい事かしら。はっきり言うは! 1000年生きてる私からして日本よりご飯の美味しい国はないわね」
ドンとビールを飲み干したディアナさんはワインの入ったグラスを持って一口。酸味が少なく甘めの赤ワイン。決して高級なワインのそれに1ミリも触れない。が、それがいい。
「ふぅ、おいし。何かワインに合うもの……マルゲリータとミートドリア」
「分かっているなディアナさん! やはり光の飲み友は違う」
「その言い方やめて、あのマンションの住民達はちょっとアレなのよ」
酒好きだらけの住まうマンション。毎晩どこかしらで飲み会が行われており、セラさんもディアナさんも時折それらに参加することがあるが、中々の飲兵衛達。
一見まともそうなセラさんの居候先の犬神さんも部屋一つが酒屋みたいな状態。そんな連中に比べればディアナさんは自分はまだマシな方だと勘違いしていた。
「いやいや、ディアナさん、もしかして自分だけ違うとか思っているのか?」
ボトルのワインをグビグビと飲み干しながら次の料理もといおつまみを待っている。その姿ややはり飲兵衛。
「ふぅ、あー、なんかたまーに血が飲みたくなる時ってあるのよねー」
「えぇ、やめてくれよ! 噛みつかれたりしたら流石の私も魔法をだなー!」
「まほー? またまたぁ、そんなのあるわけないじゃない」
「これでも勇者達と旅をしたことも、魔王の魔法を防いだ事だってあるんだぞ!」
ヒートアップする会話。そして聞いている第三者からすればかなり痛くてヤバい内容な訳でSNSなんかで拡散される。
そんな事は知らずに、二人はボトルのワインを一本消費したあたりで2本目のボトルを入れ、それと同時にドリンクバーも注文。
ここからはワインとジュースや炭酸水を割ってカクテルにして楽しむフェイズなのだ。
「ファミレス飲みと言えば、ここから本番よね」
「うん、全くだ」
そんなファミレス飲みは後半戦へ進む
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