第6話 酔いどれエルフのカップ焼きそば呑みinフードコート
「犬神さん」
「あぁ?」
「私もまぁ、そこそこ長生きしているわけで、あらゆる魔道具を見てきたわけなんだよな?」
「おぉ、なんかお前にしては面白そうな話だな!」
「カップ焼きそばを作った犬神さんの世界には感服しかない。そして感謝しかない」
「いきなりしょーもない話になったな。が、嬉しい事言ってくれるじゃねぇか、俺もカップ焼きそばは超好き。じゃあ、今日は古い友人と会ってくるから、留守番よろー」
「はい、行ってらっしゃい」
スマホ一つ持って出ていく犬神さんを見送ると、時計を確認する。昼前、11時半。デリバリーを頼んでもいいが、犬神さんがインスタント食品をまとめてある棚を開ける。
今日はもう起きた時から心はカップ焼きそばなのだ。
「犬神さーん! カップ焼きそば切らしているぞぉ……仕方がない、買いに行くか、お財布、お財布っと。この世界の貨幣経済の水準は凄まじいものだな。お金以外にもクレカ、QRコード決済と……、まぁでも私は現金派だな。犬神さんはノーマネー派なんだがな」
セラさんはカップ焼きそばを買える場所を考える。当然、コンビニ。ディスカウウトストアやドラッグストア、スーパー……
「ここは泥酔しなければ飲酒可能なフードコートのあるスーパー一択だな! なぜなら私は家に帰るまで我慢できる自信がない!」
そんな終わっている理由で買ったら即飲めるスーパーに向かってセラさんはそう独り言を言うとスーパーに入るやいなやインスタントラーメンコーナーへと向かう。そこでどのカップ焼きそばを買うか考える。
「カップ焼きそば界の最大勢力、日清UFO。あるいはペヤング……だが私が今食べたいのはカップ焼きそばの中でも異様にジャンク感が強い。ごつ盛。君に決めた!」
セラさんは買い物かごにごつ盛ソース焼きそばを入れると、スーパーの中をしばし探索。呑むお酒はこれもまた少しジャンクよりの物がいい。
「流石にストゼロをフードコートでやるのはまずいか……うーん、迷うな。ここはハイボールで合わせてみるか。角ハイ、は少し上品がすぎるな。ならば、トリスでペアリングだ」
真昼間、平日の午後13時半である。それがいかにスタイルがよく、いかに美人であったとしてもでもある。
主婦層、奥様達からするとセラさんはかなり有名な可哀想な美人としてヒソヒソ語られている。
そんな事、全く知らないセラさんは呑むお酒が決まると、使い捨てのプラコップにロックアイス。そしてツナマヨネーズとかっぱえびせん、プッチンプリンも籠に入れてそれらを購入。
「しめて900円台か、我ながらせんべろの達人だな。ふっ」
1000ベロとは1000円で酔える。あるいはお酒を楽しめる飲み方で居酒屋なんかでもよく展開している飲兵衛用語である。
セラさんクラスになると、カップ焼きそばを普通に作って食べるという領域からはすでに脱している。これより今買った食材を使って魔改造するのである。とセラさんは自分が凄い事をしていると思っているが、案外みんな行っている。
「かっぱえびせん。これほどまでに酒に合うスナック菓子があるだろうか? エルフの里の皆に食わせてやりたいものだ。エビの味がするお菓子なんてこの世界の人間は天才か? 認めたくないものだな」
会計を済ませるとセラさんはまずごつ盛りにお湯を入れる。3分という苦行にも思える長さの待ち時間を潰せるアイテムがかっぱえびせんとツナマヨネーズなのだ。
ツナマヨネーズにかっぱえびせんをディップしながらプシュっとトリスハイボールのプルトップを開ける。
「最近、私は知った。缶のハイボールは氷を入れて始めて美味しくなる事をな! ふふっ、犬神さんに今度教えてやろう。驚いて腰を抜かすだろうな」
当然、犬神さんはそんな事もっと前から知っているのだが、テンションの上がったセラさんは鬼の首でも取ったかのようにプラコップに氷を入れてトリスハイボールを注ぐ。
「3分間、待たせてくれるな。んぐんぐ。かーっ! このトリハイの味がたまらない! ふふっ、ツナマヨカッパえびせんの破壊力や、難関ダンジョンの魔獣クラスだな」
くくくくくと笑いながら、フードコートでお酒を煽るセラさん、スーパーで働く人達の中ではエルフさんがまた来てますねと話されている。カップ日本酒に惣菜の揚げ物だったりパターンは違うが、このフードコート飲みをしている人物の一人。
「ついに出来た。待たせやがって! 3分あったら超上級魔法の詠唱ができるレベルなんだからな! こいつめ! お湯を捨ててやる!」
ジョボジョボとセラさんはカップ焼きそばのお湯を捨てる。セラさん程カップ焼きそばを作ってきたエルフとなると、湯ぎりの仕方も抜かりない。止めてガシャガシャと容器を動かしてさらにお湯を切る。そして割り箸で麺を上げながらソースを絡めていく。かやくと調味料をかけて完成……とはいかない。
何を思ったか、乱心したかセラさんはかっぱえびせんをバキバキと潰してそれをごつ盛りにかける。さらににゅっととぐろを巻くようにツナマヨネーズをかけて完成。
「やばっ、一線を超えてしまったな。これはメーカーの連中が泣いて私にレシピの公開をお願いしてくるかもしれん。それではいただきます」
ずずっ、ずぞおー! と麺を啜って口の周りにソースをつけてセラさんは一旦、トリスハイボールでカップ焼きそばを流す。
「なんだこの美味さわ! 信じられん、これを私が作ったというのか! トリハイを飲んでトリハイがいる間にごつ盛り、ごつ盛りがいる間にトリハイ……無限回廊のごとし美味さだな‥‥」
二本買っていたトリスハイボールを飲み干し、ごつ盛りを全て食べ終えたセラさんは、続いてシメのプッチンプリンへシフトする。
「この後ろの棒を折るとプリンが出てくる奇跡、これ殆ど魔道具の領域だろう! が、今回は残念だがそのまま頂こう」
絶対に裏切らない美味しさ、グリコのプッチンプリン。それを食べ終える事でこのカップ焼きそば飲みのシメとする。忘れてはいけない半分以上残っているツナマヨネーズとあと少しばかり残っているかっぱえびせんを別のスーパーで購入した頑丈な有料ビニール袋に入れて家路に戻る。
「ふぅ、カップ焼きそばの満足感は半端じゃないな。うん、今日はカップ焼きそばを食べて良かった。またスーパーに飲みにいくとするか」
そう言っててくてくと家路に戻るセラさん。小さな事で幸せを感じることができたわけだが、独り言を言いながらフードコートで飲んでいる不審な女がいるとクレームが入り、今度スーパーのフードコートで飲酒不可になる事をセラは知らない。
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