05_創造

 でもどうやって彼女を助ければいいんだ。


 浦野は、ムカデ型の怨虫に捕らえられている彼女の方を見る。怨虫の身体は、頑丈で浦野の力で破壊することは骨が折れそうだった。


「想像するがいい。人間。あの怨虫を切り裂く武器を」


 声。なんか声がしたんだけど。はっきりと聞こえた。


 浦野は、慌てて周囲を見渡すが、話しかけてきた人物の姿はない。


 気のせいか。いや、でもはっきり聞こえたよな。


「気のせいで済ませようとするな。お前は、あの女性を救いたいのだろう」


「……ええ、誰!?やっぱり、話しかけられてる」


 聞き覚えのない声に、浦野は、動揺して大きな声を出す。


「何を慌て付ためていている!?我の攻撃をたまたま回避しただけでいい気になるなよ。次は殺す」


 ムカデ型の怨虫は、浦野に対する苛立ちを募らせ、殺意をむき出しにする。口をしきりに動かし、再び勢いよく浦野に襲い掛かる。


「ささっと、武器を想像しろ。死にたいのか!」


 浦野の中で、何者かの声が響く。浦野は、その勢いのある言葉に、思わずビクッとなりながらも、言われた通り武器をイメージしてみることにした。


「武器をイメージ。武器をイメージ。このムカデみたいな化け物を断ち切れそうなもの。時間がない。やっぱり、断ち切るなら、刃物だ。刃物を想像しろ」


 彼が武器を長細い刀をイメージすると、彼の右手がぐちゃぐちゃと変形し、イメージした通りの刀に変わった。


「な、なんだ!?変形!?僕の右手が、変形した!?なんか、思ってたのと違う。想像したら、なにもないところから、出てくるのを想像してた。まさか、自分の手が変形するとは」


 イメージ通りに身体が変形するという常軌を逸した光景に浦野は、驚きを隠せない。


「驚いている暇はないぞ。集中しろ」


 浦野は、気持ちを落ち着かせ、集中する。ムカデ型の怨虫の軌道を読み、紙一重のところで回避すると、手を変形し作った刀を構える。


「イメージするんだ。この硬質な身体を引き裂くところを」


 浦野は、ムカデ型の怨虫に向かって、刀の切っ先を思いっきり、振り下げる。


 カキン。


 その瞬間、耳をつんざくような甲高い音が鳴り響き、一瞬、眩い火花を散らす。


 くそ、だめだった。やっぱり、僕の力ではこいつには勝てないのか。


 刀を弾かれ、隙ができた浦野にムカデ型の怨虫はすかさず攻撃を加える。長細い胴体を使って、浦野の身体を向こう側の壁まで弾き飛ばした。


 浦野は、怨虫の攻撃で壁までなすすべもなく勢いよく飛ばされ、激しく身体を壁にぶつける。普通の身体なら、すでにお陀仏だろうが、特殊な身体を持つ浦野は、なんとか意識を保つことができた。


 とはいえ、気を抜けば、意識を失ってしまいそうな危険な状況には変わりはない。


 どうする。このムカデ型の化け物に、刀攻撃は効かない。かなり不利な状況だ。どう攻略するべきだろう。


 いつ死んでもおかしくない絶体絶命の状況に、浦野は、意外にも笑みをこぼした。彼の中に、自分でも理解不能の高揚感がぶわっと湧き上がる。


 面白い。こんなにも、刺激的なのは初めてだ。僕は、生きているんだって思わせてくれる。


 何としても、こいつを倒して、彼女を助け出す。絶対に。

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