12月21日   奇跡の声、そして絵(第七部 アニメーション版について)

 この「ラスカル」(日本題「はるかなるわがラスカル」)は、もしテレビのアニメーションとならなければ、本国で一時的にベストセラーとなるも、ひっそりと忘れ去られた作品かもしれません。

 


 この「ラスカル」が世界名作劇場で放送されるようになった時、これを不思議に思う人も多かったのではないかなぁと思います。それまでの三作が、誰でも知っているような、図書館の定番の名作だったのに比べ、「ラスカル」は当時、日本で無名だったからです。


 前の三作(「アルプスの少女ハイジ」、「フランダースの犬」、「母をたずねて三千里」)がかなり古い、十九世紀を舞台としたお話で、登場人物を取り巻く環境が現代とあまりに違い過ぎていたので、今度はもっと新しい時代のお話にしたかったのかもしれませんね。そして貧困という重い問題もとりあえず置いて……。愛らしい動物の子どもと出会う、ときめくような、そして現代っ子(当時の高度経済成長期の)に共感できるようなお話としては、「ラスカル」は理想的ですよね。もちろん本当は甘いだけでなくて、ほろ苦いお話でもあるのですが。

 加えて言うと、作者が数年前に亡くなっていて、アニメ化に反対されなかったという点もあるかもしれません。いえ、生前でも反対はされなかったかもしれませんが、スターリング・ノースは、生前、漫画が子どもの考える力に有害である事を主張していたからです。もちろん日本の、特にこのスタッフの制作したアニメーションは特別で、前作を見せ、納得してもらう事は十分出来たと思います。

 スターリング・ノースが有害としていた漫画の例はステレオタイプなアメリカン・ヒーローものだったんですよね。んー、全然違いますね。


 私は、本作品が最初に放送されていた時には残念ながら見ていませんでした。ある日再放送の、ある回を見て、いきなり心を捕まれたんです。

 それは原作にもある、近所の人達が家にやって来て、ラスカルによる農作物の被害について苦情を訴える回です。父親だったと思う、大人が主人公に説明します。「アライグマはスイートコーンの味を憶えたら、ずっと作物を荒らすものだ。これには抗えない」

 そして客にぶどうジュースを振る舞います。この時の声優さんの繊細なセリフ、ナレーションの言い回しに心を掴まれました。

 内海敏彦さん。この時代の子役で、本当にスターリングと同年代だったんですね。

 他にも「鉄道員」、「小さな恋のメロディ」、「天使の詩」、「クリスマスツリー」等、今でも語り継がれる名画の数々の子役の吹き替えをされていたんですねぇ。声変わりを機に引退したとは本当に残念です。ちなみにオスカー役の吹き替えも、鹿股裕司さんという子役だったとの事。子役が豊作の時代だったのでしょうか。「トム・ソーヤの冒険」では大人の野沢雅子さんですもんね。

 また、絵の繊細な感じも良いです。実はかなり昔の家族の写真が残っていて、それを参考に作画が行われたのかなと思いました。

 気になるのは、主人公がよく着ているジャケット、これはノーフォークジャケットというそうですが、長女セオから贈られた時、これを着ると軟弱に見えるからと嫌がっていた型です。でも確かに写真ではよく着ているようなので、このスタイルになったんでしょう。写真を撮るとなれば、よそ行きでという時代ですね。でも主人公のイメージにピッタリでした。

 今では世界の宮崎駿さん、ここでも良い仕事をされています。

 とにかくこの絵と声優さんに恵まれ、アニメーション「あらいぐまラスカル」は幸運なスタートを切りました。それに、アニメーションならではの副産物もあったのです。次へ続きます☆彡




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