12月19日   悲しみの影(第六部 農場での生活)

 農場の仕事は、文明が発達し、様々な農機具が開発された今でも大変みたいです。

 1900年代初旬となると、尚さら、大変です。

 この農場は、元々はスターリングのお父さんのお父さん、つまりお祖父さんが経営していて、それをフレッド叔父さんが引き継いだものでした。

 このフレッド叔父さんは、スターリングのお父さんとは正反対のタイプですが、違う意味で、どちらも鈍感力があります。(^_^;)

 叔父さんはワンマンで、自分の思うようにやっちゃうタイプで、典型的な昔の家長タイプ。親族には物書きの人もいますが、フレッド叔父さんは文章を書くような繊細さはありません。

 さらに叔父さんは、空気の読めないところがあります。

「桃しか成らない愛の園で、なぜレモンを摘んだんだろう?」という歌(桃=美人、レモン=不美人)にちなみ、叔母さんが不美人であるかのようなモラハラなジョークを言ったり、スターリングはラスカルをいつかアライグマ鍋にして食べるために太らせているのだろうというような、笑えないジョークを飛ばします。

 ちなみに、スターリングは、話題をうまく切り替えてこのジョークをかわそうとします。偉い子です。(^_^;)叔母さんは、このラスカルに関する冗談についてはさすがに、抗議します。 


 

 もちろん叔父さん自身、働き者で、やる事はやるタイプで、家族思いなんです。でも農場のきつい仕事に比べると家の中の主婦の仕事なんて大した事ないというのがフレッド叔父さんの考えで、これにスターリングは違うと思っているんですから、やっぱり記者になるような子です。というか、この辺は、現代の平均的な男性と比べてもジェンダーに関する意識が高いんじゃないかと。

 では、自分の父親については、それに比べて百点満点と思っているのかと言うと、妻が出産間近の時にはいつも出張していたとか、リリー叔母さんに何かしてもらうのをいつも当たり前のように思っている、等、こちらも結構、手厳しいです。年の離れた勝ち気なお姉さんがいるから、フェミニストに育ったんでしょうか。

 なお、叔母さんの台所の仕事をこの家の三男のアーネストが手伝おうとするシーンがあり、それは滅多に見られない事、とあったので、この時代、日本もそうですが、通常、北米、ウィスコンシン州でも男の子は台所仕事を手伝わない慣例だったみたいです。



 狩猟の好きなフレッド叔父さんの家には動物の剥製が幾つもあって、それもちょっとこの家を顕しているような気がします。

 そして、ラスカルがアライグマの親子の剥製を見てすごく心惹かれていたという話があり、ちょっと切なかったです。


 この農場で、スターリングが叔母さんから蜂蜜をもらうエピソードも心に残っています。

 この家は養蜂もやっていて、ある日、叔母さんが、スターリングとラスカルに採れたての蜂蜜を振る舞います。

 食いしん坊のラスカルが、容器の蜂蜜を独り占めしようとしているのを見て、リリー叔母さんは、眼に涙を浮かべる程、笑いました。こんなふうに声に出して笑うのは、リリー叔母さんにとっては珍しいと書いてあります。


 ある日、スターリングの将来の話になり、叔母さんは、いつか大学に入り、勉強するのねと訊くと、これに対しては大学へは行くつもりだと答えます。叔母さんは喜びます。そして自分の息子三人は、父親が進学をさせなかったと言います。お金はあるんですが、自分自身が中退しているので、農場の仕事に学問は必要ないと決めつけているのだと。どんな道に進みたいか、一度も本人に決めさせる事もなかったと言うのです。その時、リリー叔母さんの顔に初めて悲しみの影を見ます。ここは天国みたいな場所だと言っていたのに。

 そしてスターリングの将来の夢について訊きます。スターリングは、医者かなぁと答えますが、これについて、叔母さんは賛成しません。なぜなら農場で従業員が機械に足を挟まれ、医者が足を切断しないといけない場面に立ち会った事があるからです。そういう仕事は優しいスターリングには不向きと考えているようです。四肢切断……これはまた、リリー叔母さんは、ハードな治療の場面に遭遇したものですね。都会の内科医なら、そんな事はなさそうですが。

 その代わり、叔母さんは、スターリングには物書きが似合うんじゃないかと言います。物書きになったら、今、この瞬間ときを記録し、永遠に遺しておけるのよ、と。話しているうち、スターリングは、自分の死んだお母さんと話しているような錯覚にとらわらます。

 ここでこの章は終わり、次が短い最終章、ラスカルとの別れの章となります。


 スターリングは、ある意味、叔母さんの夢を叶えたかったのかもしれませんね。叔母さんの色々な思いや夢を、記録したかったのかなぁと。

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