12月18日   天国のような場所(第六部 農場での生活)

 この物語の中では、様々な心はずむ瞬間が描かれています。お父さんやラスカルと一緒の旅行、カウンティフェアの移動遊園地、クリスマスの夜等。

 ただこのお話の中で、主人公の心に将来へ向けての何らかのインパクトを与えたのは、おそらくフレッド叔父さんの経営する農場での生活なのではないか、と思っています。

 ラストに向かって加速度を与えているのも、同じくここでの経験が関係しているような気がします。


 アニメでも、ある意味、農場での出来事は、主人公の選択に影響を与えていました。アニメでは、お父さんの仕事が上手くいかなくなって、上の学校へ進むか、お父さんと農場で働くか、という選択で迷います。結局、スターリングは学校へ進む方を選び、住んでいた町を離れる事となります。

 それより以前のエピソードで、フレッド叔父さんの息子のアーネストが学校の勉強の大切さについて語るシーンがあり、それが影響したと考えられるのです。この辺は全てアニメのオリジナルストーリーで、叔父さんの息子、つまり従兄弟達が上の学校に進まなかった事くらいしか原作と同じ点はありません。


 原作では、スターリングは、その年、二度、フレッド叔父さんの農場に行きます。

 一度目は、「スペイン風邪」の回で書いたように、スターリングがスペイン風邪にかかってしまい、療養目的で訪れた時です。


 もう一回は、真冬の夜中にフレッド叔父さんから電話があり、ケースウェザーなので、これから農場を手伝ってほしいと言われて行くのです。これは、きっと季節イベントみたいなものですね。ある気象条件になった時、おそらく寒波が襲って来そうな時にすぐに葉タバコを採り入れないといけないみたいです。それは親族は皆、了解済みです。ちなみにこの地域はタバコの主要な産地です。

 夜中にも関わらず車を飛ばすと、他の車や馬車も、すでに同じ目的で走っているのでした。

 何だか奇妙な感じがするかもしれませんが、少し前まで、実家や親戚が農家の人はたとえ他の仕事をしていても、田植えや稲刈りの日には普通に仕事を休んで手伝う……とそれが当たり前でした。学校の先生も休んでいたような。九州地方だけでしょうか?

 なので、個人的にはこの呼び出しに、そんなに違和感はありませんでした。それに、スターリングがスペイン風邪にかかった時に、アポ無しでやって来た事を考えれば、その位の協力はしてあげましょうという気になりますよね。(⁠人⁠*⁠´⁠∀⁠`⁠)⁠。⁠*゚⁠+




 私は、時代を超えて、一週間だけタイムトラベルできるとしたら、この時代のこの農場で過ごしてみたいです。


 キッチンには、清潔なギンガムのテーブルクロスを掛けたテーブルがあり、秋の草花を飾ってあったり。


 静かで、穏やかに一日が過ぎ、謙虚な気持ちで自然の恵みに感謝しながら生きている家族という気がします。


 リリー叔母さんは、「もし天国という場所があるなら、きっとこの農場のような場所の事」と言い、生まれ変わってもまたここに住みたいと言います。


 夕食後には、居間に皆が集まります。そしてリリー叔母さんが農業雑誌の連載小説を音読し、皆がそれを聴いています。スマホはおろか、テレビもない時代ですが、こういう時間の過ごし方はいいなぁと憧れます。


 スターリングは、リリー叔母さんは自分にとって母親のような人、とても大切な存在だと感じています。


 そして、だからこそスターリングは、果たして本当にリリー叔母さんにとってここは天国のような場所なんだろうかと疑問に思う事もあるのでした。農業地帯の簡素な美しさもありますが、もちろんそれ以外の問題も色々ここにはあるので。

 というわけで、この問題については明日に引き続きます。







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