16-12
『……メインイベント? いったいどういう意味だよ』
眉根を寄せるとミシャはニヤリと唇を歪めた。
『説明は後じゃ。その前にあの雑魚を始末せねばならんからのう』
そして不敵に笑ったかと思うと不意にグッと腰を沈め、
『それに丁度良い機会でもある。よく見ておれ。貴様とて修練を積めばこの程度の太刀回りはできるというのを教えてやる』
跳んだ。
ミシャの言葉が終わらぬうちに教会の尖塔が足許と同じ高さになった。
見下ろすと怒りに打ち震えるカイセの右腕から放たれた一本の真っ黒な鏃が俺を射抜こうと迫っていた。
その距離、数十センチ。
空中では避けようがない、当たる。
俺は頬を引き攣らせた。
『良いか、こういうのは……』
体が激しく捻転した。
脇腹の痛みに俺が呻きを漏らすと同時に鏃が左肩と頬をかすめて空高く消えていく。
『見極め、最小限の動きで躱わすのが肝心。なぜなら……』
すでに体は落下し始めている。
そこでもう一度反転。その激痛に俺はグッと奥歯を噛み締めてなんとか耐えた。
ミシャが両手を頭上で組み上げ、そして自然落下の加速を同調させたその凄まじい勢いでカイセのシルクハット目掛けて振り下ろした。
強烈な手応えが組んだ拳から伝わった。
ガハァッ。
血を吐くようなひしゃげたカイセの声が鼓膜を振動させる。
『すなわち、このように回避は次の攻め手の布石となる』
頭を潰した。これではカイセといえどすぐにはダメージを修復できないはず。
ここで一気に。
けれどその思念にすぐさまミシャの叱責が放たれる。
『阿呆ぅ、気を抜くでない』
着地した、と思いきや爪先が地を駆り身体が右真横にすっ飛ぶ。
目を遣ると黒霧の触手が俺を捕えようと戸愚呂を巻きながら左手に迫っていた。
『戦いの最中にあっては攻撃と防御、常に両面で備えよ』
右足の外側が石畳を捉える。
直角に方向転換、と思ったが石の表面が濡れていて靴底が滑り、そのまま先の草地に突っ込んで減り込んだ。
膝が強烈な慣性に逆らいながらそれを受け止め、ようやく滑走を止める。
けれど隙が生まれた。
もちろんカイセがそれを逃すはずがない。
黒霧が巨大な顎門となって呑み込もうと弧を描いて頭上から襲い掛かる。
「ウハハァ、バカめ。死ね、死ね、死ねぇぇぇッ!!!」
怒りと嗤いを内混ぜにしたカイセの雄叫びが響いた。
勢いに負け右膝が曲がる。上半身が倒れる。
これはさすがにミシャといえど避けようがない。
喰われた。
そう覚悟した矢先、ミシャの含み笑いが聞こえてきた。
『
肩が素早く右に半回転。
その捻転が胸から腰に、そして右脚から膝へと伝わる。
『相手の油断を誘い、作り出すものじゃ』
激痛。
けれど俺の呻きをよそに爪先がぬかるんだ地面の底を抉るように蹴り飛ばした。
すると次の瞬間、俺の身体は百八十度方向転換して黒霧を掻い潜り、再びカイセへと跳んでいく。
『
凄まじい疾さでカイセの腹が目前に迫った。
「……くッ」
焦った奴が必死の形相で霧を引き戻す。
「ふん、もう遅いわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます