13. Daybreak 83 - 87
13-1
夜半、鼓膜に潜り込んできた雨音が
目を擦りつつスマホを持ち上げると時刻は午前四時半を少し過ぎたところだった。
次いで窓に目を向けるとレースのカーテン越しに薄らとした明るさが感じられる。
夜を徹して見張るつもりだったがいつのまにか二時間ほど眠っていたらしい。
普段から宵っ張りな俺は完徹など訳もないと思っていたのに不覚だった。
やはりいろいろなことがあって疲れていたのだろう。
とはいえ何か異変があればミシャが気付くので問題はない、……はずなのだが、あいつはわざと俺を窮地に立たせて楽しむ性悪なところがあっていまいち信用できない。
まあ、何事もなく夜が白んできたようでまずは良かった。
俺はソファの背もたれに預けていた背を起こし、辺りを見渡してみる。
薄明かりのリビングには布団を敷いたり、リクライニングチェアをベッド代わりにして各々が睦月を取り巻くような形で眠っていた。
睦月もラグの上に敷いた布団で静かな寝息を立てている。
そしてそばには寄り添うようにして柏木さつきが横たわっていた。
出会ってまだ二日と経っていないけれど、俺はこいつのことを見直し始めている。
最初はセレブリティーな家柄と小癪な駆け引きを盾に俺を厄介ごとに巻き込む後輩だと煙たく感じたが、その一面は弟を護るために敢えて使わざるを得なかった武器だったらしい。
そのことは霊界から引き戻された睦月を抱きしめた際に見せた泣き濡れた笑顔に存分に表れていた。
あの瞬間、俺は得心した。
たぶん柏木は睦月の姉でありながら同時に母親でもあろうとしているのだろう、と。
口で云うのは簡単だが実際にやろうとすれば相当に困難で途方もない忍耐が必要なことだと思う。
たとえば俺の姉が母親代わりをすることなど想像もできない。
というかジャイアントスイングよろしく俺を振り回してきたあの姉が気まぐれにも弟の世話を焼いてやろうなどと思ったことがこれまでにあっただろうか、……いや、ない。たとえあったとしても片手の指で足りるほどだと断言しても良い。
しかし母親がいなければ、そんなアレでもやはり成り代わって俺の面倒を見ようとしたのだろうか。
……ううむ、やはり想像できない。
思い浮かべられるのは悪役令嬢のように踏ん反り返って俺に家事のあれこれを指図する光景。なんだかそれだけでげんなりとして思わずため息が漏れそうになった。
まあ、ここで不肖の姉を引き合いに出すこと自体憚られるというものだが、それだけに弟を護ろうとする柏木の必死さが俺の目に眩しかった。
いや、眩し過ぎたかもしれない。
そこには無垢な愛情よりも責任とか義務といった肩肘に重いものが関わっているような気がした。
とどのつまり、かなり無理をしているように感じられて気の毒に思えたのだ。
彼女が受け持つ母親の役割の半分でも誰かに肩代わりしてもらえたらずいぶんと楽になるだろうにと思わず老婆心のような感想さえ浮かんでしまった。
その思考とともに自然、俺の視線は雑賀さんの方に向けられる。
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