第31話

「そうだ! この出来事や、おふたりのなれそめを書くんですよね? それなら番号交換くらいしておかないと」

早紀は名詞を取り出そうとするが、なにも持っていないことを思い出した。


「大丈夫、こんなことがあったんだ。あなたのことは忘れませんから」

宏が笑いながら言う。

「あ、そうですよね。私も、みなさんのことは忘れられそうにありません」


歩きながら早紀は感慨深い様子で呟く。

こうして外へ出られたものの、犯人が誰なのか、目的はなんだったのか、なにもかもわからないままなのだ。


6人は途中で立ち止り、自分たちが監禁されていた建物へ視線を向けた。

灰色の長方形の建物だ。

3階建てくらいで、出てきた出口があるだけで窓は見当たらない。


なんの建物なのかわらかない。

「とにかく、行こう」

京一は香澄の手をしっかりと握り締めて、建物から視線を外したのだった。


そんな6人を見守っている数人の人間がいた。

その人物たちはモニター越しに帰っていく6人を見つめている。


「成功ですね」

女性の爽やかな声が室内に響く。

すべての仕事をやり遂げて、スッキリした表情だ。

「あぁ。今回は比較的素直は人たちでよかったです」


柔らかな声の男性が返事をする。

「この件はこれで終了っと」

もう一人の女性がそう呟いて書類の上に済のハンコをポンッと押した。

書類には宏たち6人の名前を顔写真、彼らの詳細が書かれている。


それと一緒にSNSでの書き込みが一緒にファイリングされていた。


○月○日、15時14分

《アクア:どこからどう見ても両想いなのに、なかなか付き合いはじめない人がいる》

○月○日、15時16分


《リンネ:私のまわりにもそんな人います! 作家と編集者だから、一線を越えちゃいけないと思っているようです》

○月○日、15時17分

《アクア:リンネさん、こっちは社長と秘書です。でも社長もまだまだ若くて独身。なにも遠慮することなんてないんです》

○月○日、15時18分


《トマリ:こっちはアイドルとマネージャー兼プロデューサーだよ。恋愛禁止らしいけれど、それはマネージャーが勝手に決めたことだから、守る必要もないんだよなぁ》

○月○日、15時19分

《アクア:見ていていじらしいから、どうにかしてあげたいよね》

それは一ヶ月前に恋愛相談アプリに投稿されたものだった。


その恋愛相談アプリの特徴は自分たちができるものはお手伝いする。

というものだった。


両想いをわかってるなら、後は素直になってもらえばいいだけ。

そこで提案したのが今回の《相思相愛です。げーむ》だ。

元々相思相愛の人間たちを素直にさせるため、少しばかり怖い目にあってもらうのだ。


つり橋効果という言葉があるとおり、ピンチのときには近くにいる人間にすがってしまう。

それを利用したのだ。

性的な命令をあえてさせたのは、互いを強く意識してもらうためだった。


でも安心してほしい。

カメラで確認はしていたけれど、録画などはしていないから。

自分たちの目的は恋愛相談アプリに書かれた内容を把握し、手をかすところまでだ。

なぜそんなことをするのかと聞かれれば、暇だから、としか言いようがない。


ここにいる唯一の男の家は資産家で、働かなくても一生遊んで暮らせるだけのお金がある。

その金をどう使おうかと考えたとき、思いついたものだった。


アプリの利用者や書き込まれた本人たちが相思相愛になったって、一円にもならない。

だけど男はみんなの幸せそうな顔をみるのが好きだった。


自分の結婚が政略結婚で、逆らうことも許されなかったから、恋愛結婚に執着しているのかもしれない。

だから最後の質問で、結婚式と同じセリフを使うのだ。

そして今日もまた迷える子羊たちがやってくる。

外に設置にかモニターには黒塗りのバンが停車する。


中から3人の大柄な男たちが出てきて、後部座席を開けた。

最初に出てきたのはスーツ姿の男性だ。

薬か、またはスタンガンを使って眠らされている。


私物はすでに取り上げられ、彼らの家に郵送されている手はずだ。

「爆弾の準備はいい?」


女性に聞かれて、御曹司の男は機械をいじる。

あの爆弾は本物ではなく、大音量でスピーカーから流した音だ。

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