第27話

見た目や肩書きなんてどうでもいい、宏だからこそ、好きになったんだ。

その自信はあった。

それなのに……友美は左右に首を振っていた。


ボロボロと涙が頬を零れ落ちていく。

それをとめることもできない。

「私は花さんの代わりじゃない!」


その声に宏が目を見開いて友美を見つめた。

ひどく傷ついた宏の表情が一瞬にしてゆがむ。

違う。


こんなことがいいたいんじゃない。

花さんのことはもう終わったことで、宏は今自分のことが好きだと言ってくれている。

それなのに、友美の胸の中はぐちゃぐちゃに絡まった糸みたいに簡単にほどけてくれることはなかった。


「死んだ人は美化されます。私が花さんを追い越せる日は来ないと思います」

声が震えた。

目の前で、自分の好きな人が好きだと言ってくれている。


それなのに素直に受け入れることができない自分が悔しい。

「そんなことない! 俺は君に花を求めたりしていない! さっきは同じ香水の匂いがして焦ったけど、でも、ちゃんと君を見ているんだ」


宏はその場に土下座をしそうな勢いで言った。

どうして今のこの気持ちを理解してほしかった。

昔の恋人が死んだなんて聞けば誰だってひるむと思う。


だけど違うんだ。

昔の恋なんて今は少し関係ないことなんだ。

友美が手の甲で涙をぬぐう。


「頼む、わかってくれ」

「……本当に、私を見てくれているんですね?」

「あぁ、もちろんだよ」

友美の言葉は敬語に戻っていたけれど、そこは指摘せずに宏はうなづく。


だからこそ、告白をしたんだ。

その気持ちに嘘なんて少しもなかった。


友美は大きく息を吸い込み、そしてうなづいた。

「わかった。宏のことを信じる」

その言葉に宏はホッと息を吐き出した。

両手を伸ばし、友美の体を抱きしめる。


花と同じ香水の匂いがしたけれど、どれももう気にならなかった。

「改めて、俺と付き合ってください」

宏の言葉に友美は腕の中でしっかりとうなづいたのだった。


☆☆☆


「いつか、あの2人のことを書かせてもらいたいな」

モニターで社長と秘書ペアの成り行きを見守っていた昌也は言った。


ちょうど早紀も今の話を昌也に書いてみてほしいと思ったところだった。

「ここから出ることができれば取材に行ってみればいいわね。名前は教えてもらっているんだから」

社長の名前で検索をすればひっかかるはずだ。


「それで、次の命令だけど」

昌也がそう言ったとき、モニターの画面半分が突然暗転した。

それは社長と秘書のペアが映っていた画面だ。


「なんだ?」

「わからないわ」

早紀は画面の横を確認していじって見たけれど、なんの反応もない。

犯人が意図的に画面を消したみたいだ。


途端に不安が胸によぎる。

あの2人はどうしてしまったんだろう?

まさか、殺されてしまったんじゃあ?


そう思い、左右に強く首を振って考えをかき消した。

あの2人も自分たちも、アナウンスの命令に従っている。


それなのに殺されたりしたら、ゲームが成り立たない。

きっと別の意味があって画面が消えたに違いない。

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