第25話
☆☆☆
香澄はくしゃみをして軽く身震いをした。
2回もダンスをしたことで汗をかき、今は汗が引いてきて少し寒さを感じていた。
「大丈夫か?」
京一が香澄の体を抱きしめる。
ぬくもりが伝わってきて寒さはどこかへ吹き飛んでいく。
「大丈夫です。それより、次の命令を」
そう言う香澄の瞳はなにか期待に満ちているように見えた。
まるで京一からのいやらしい命令を待っているようだ。
京一はゴクリと唾を飲み込んで香澄を見つめた。
いつの間にこんなに大人になったんだろうと、改めて見つめる。
15歳の頃から4年間、ずっと見てきたはずなのにその実はほとんど見てこなかったのかもしれない。
とにかく香澄を有名にすることで頭が一杯で、いつまでもふりふりの衣装を選んでいた。
でも、もう違うのかもしれない。
たくさんのフリルがついた衣装とはおさらばして、新しい一歩を考えるときなのかもしれない。
京一は香澄の体を抱きしめたまま、次の命令を考えていた。
香澄のような可愛い子を自分の自由にするチャンスではある。
だけど京一の中で次の命令はもう決まっていた。
これ以外にありえない。
「香澄」
名前を呼ぶと香澄が顔を上げる。
目に涙はなく、名前を呼ばれるだけで喜んでいるのが伝わってきた。
「香澄、俺のことを好きだと言え」
京一の言葉に香澄は一瞬目を見開いた。
信じられないと言いたげな表情。
それもそのはず、香澄にはアイドルは恋愛禁止だと伝えてあり、香澄はそれを忠実に守ってきたのだから。
京一の口から、まさかそんな言葉が出てくるなんて思ってもいなかったのだろう。
「でも……」
案の定、香澄はとまどった声を出した。
どうしていいかわからずに視線をさまよわせている。
「大丈夫。俺の命令をきけ」
そう言うと、香澄は視線を京一へ戻した。
真っ直ぐに見つめられて、頬が赤く染まっていく。
「……好き」
それはモニターでは拾えないくらいの小さな声だった。
だけど、京一の耳にはしっかりと届いた。
「本気で好きか?」
「本気で好き!」
香澄が自分から京一の背中に両手を回した。
そして力強く抱きしめる。
「私は本気で京一さんが好き! きっと、ずっと好きだった!」
香澄の本心があふれ出す。
恋愛禁止という掟によって隠されてきた気持ちが、とめどなく流れる。
京一は香澄を抱きしめた。
「俺もだ。本気で香澄のことが好きだ」
2人はささやき合い、いつまでも抱き合っていたのだった。
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