第21話

「俺、人見知りで笑顔も見せなくて、友達もほとんどいなくて、敬遠されて。それなのに中野さんは一生懸命に俺のことをみてくれた。作品だけじゃない、俺に近づくために頑張ってくれた」


それは早紀が昌也を見つけてすぐのことだった。

初めて昌也と打ち合わせで顔を合わせたとき、確かに感情の薄い人だと感じた。

でもそれよりも早紀は昌也の書く作品に魅入られていた。


こんな心温まる作品が書ける人なのだから、表情が乏しくてもその心の中にはちゃんと熱い気持ちがあるはずだと思った。

そして昌也自身にもそう接してきたのだ。


「俺、ここまで熱心に自分のことを考えてくれる人と会ったのはじめてなんだ。本当に感謝してる」

「好きって、そういう意味なの? 尊敬とか、感謝とか、そういう――」


途中で早紀の言葉はさえぎられた。

唇で唇を塞がれた早紀はそのまま昌也に身を任せる。

入り込んできた舌が早紀の舌と絡み合い、それはまるで好きだと必死に伝えているようにも感じられた。


抱きしめた早紀の体は思った以上に細くて頼りなくて、その瞬間から昌也はこの人を守らなければと感じていた。


いいようのない愛しさが2人の間に駆け巡っている。

「私も好きよ。作家だからとか、そういうんじゃない」

早紀も必死で自分の気持ちを伝える。


何度好きだといっても足りそうにはなかったけれど。

「いいですねぇ。愛を感じますね」

そんな二人の間に割ってはいるようにアナウンスの声が聞こえてきた。


2人は身を話、昌也は空間をにらみつけた。

「今回はそれでOKとしましょう」

「え?」

早紀は拍子抜けした声を出した。


アナウンスの指示では命令は前の人たちより過激でなければならないと言っていたはずだ。

この程度でいいとは思っていなかった。


もしかしたら、互いに本音を伝え合ったことがよかったのかもしれない。

2人は抱き合ったまま呆然とその場に立ち尽くしていたのだった。


☆☆☆


モニターを見ていた京一はアゴに手を当てて首をかしげた。

編集者と作家の番になったとき、途端にアナウンスが優しくなった。


今までそんなことは一度もなかったのに、どういうことだ?

「次はどうするの?」

見ると全裸の香澄が近づいてくる。

すっかり大人になった香澄の体を見て思わず生唾を飲み込んだ。

「ねぇ、早くしないと殺されちゃうよ」


香澄はそう言いながら京一にすがり付いてくる。

上目使いを駆使して京一と誘っているようにも見えた。

京一は拳を握り締めて香澄を見つめる。

いいのか?


本当にこんなことを続けていいのか?

最後には香澄とセックスまでするのか?


考えても考えても目の前にぶら下がっている誘惑に頭の中が真っ白になる。

「ねぇ早く」

まるで誘惑してくるように香澄はささやく。


「早く私に命令をして」

京一はささやかれるたびに思考回路が止まってしまう。

「早くしないと、殺されちゃうよ」

次の瞬間京一は香澄を抱きしめていた。


香澄のささやきが麻薬のように体を駆け巡る。

まるで自分が自分じゃなくなってしまうような浮遊感。

今自分がここに立っていて、ここで呼吸をしているという認識すら乏しくなっていく。


京一がこんな風に自分を見失うことは今までなかった。

自分で発掘したアイドルに手を出すなんて、そんなことはありえないことだった。


彼女たちを有名にさせるのが自分の夢で、彼女たちの夢でもある。

それなのに、デビュー前に香澄をけがしてしまうなんてこと……。

京一は香澄の手を掴み、下腹部へと移動させた。


「ここを触って」

ささやかれた香澄はビクリと体を跳ねさせる。

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