第20話
☆☆☆
「このままだと最後までいくな」
モニターを見ていた昌也が抑揚のない声で言った。
それは早紀も感じていたことだった。
みんなの行動はどんどんエスカレートして、大胆になってきている。
この空間や自分たちのしていることに慣れてきたのかもしれない。
「次はどうする?」
そう質問をされても早紀はすぐには返事ができなかった。
どうすればいいかなんてわからない。
早紀もついさっきの出来事で体は火照ったままだ。
昌也に触れられた部分が、まるで焼けどしてしまったときのように熱い。
「今のより過激なこと、できる?」
昌也は質問をくりかえしながら早紀に近づいてくる。
早紀は思わず昌也の下腹部へ視線を向けてしまう。
全裸の昌也のそこは、男らしくそそり立っている。
あれが自分の中に入ってくるかもしれないと思うと、一瞬にして脳内は真っ白になる。
自分がその快楽を望んでいることは十分に承知していた。
今すぐにでもそれがほしいと、まるでおもちゃをねだる子供のように感じている。
だけどそれを口に出す勇気はなかった。
見ている人たちがどう感じるか、昌也がどう感じるか。
わずかに残っている恥じらいもあった。
「俺は中野さんの言うことならなんでも聞くよ」
昌也の言葉に一瞬早紀は切なそうな表情を浮かべた。
それは自分が編集者だからだろうか。
それとも、ジャンケンに勝ったからだろうか。
どっちにしても昌也にとっては早紀が大切だからそう言ったわけではなさそうだった。
「じゃあ、抱きしめて、好きだって言ってもらおうかな」
早紀は自分の言葉に驚いた。
今私、なんて言ったの?
これくらいのことで許されるなんて思えない。
それはわかっていたのに、思わず口をついて出てきてしまった命令。
『好きだって言ってもらおうかな』
それは早紀が個人的にほしがっている言葉だった。
体のつながりよりもなによりも、昌也と繋がっていたいのは心だった。
昌也は一瞬目を大きく見開いたけれど、次の瞬間にはいつもどおり冷たい表情に戻っていた。
早紀にとって今その表情は胸に突き刺さるものがあった。
「ご、ごめん。今のは違うの、忘れて」
慌てて顔の前で左右に手を振る。
「違うの?」
「そう、ちょっと間違えただけ」
そうやってごまかさないといけないことが悲しくて、涙が滲んできてしまった。
いい年してなに泣いてんの。
こんな状況で泣くなんて昌也が困るとわかっているのに。
だけど、涙を抑えようとすればするほどあふれ出してきて止まらなくなってしまう。
昌也はそんな早紀を不思議そうに見つめた後、早紀の体を抱きしめた。
強く強く、大切なものを守るみたいに。
早紀の耳元に口を寄せて「好きだ」とささやく。
その瞬間早紀の中に底知れぬ喪失感が駆け巡った。
違う。
そう感じる。
確かに自分は昌也から愛されたかったと思う。
だけど違う。
こんな風に好きだと言わせたかったわけじゃない。
私は昌也の本当に気持ちがほしかったんだ。
好きだという言葉をもらった瞬間むなしさが突き上げてきて、涙が更に流れ出す。
「どうしてそんなに泣くの?」
昌也の手が早紀の頬を包み込む。
「ごめんなさい。違うの、違うの」
左右に首を振り、力なく伝える。
「俺、本当に中野さんのことが好きだよ?」
ささやかれて早紀はようやく昌也の顔を正面から見た。
「こういうことがないと、気持ちを伝えることはなかったかもしれないけれど」
「……本当に?」
こくりとうなづく。
涙はいつの間にか引っ込んでいて、頬に涙のあとが残っていた。
昌也は舌でそこをぬぐう。
暖かくてぬるぬるとした感触に早紀はキュッと目を閉じた。
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