第13話
まだ終わりではないのだとわかったのは、アナウンスでまた自分たちが呼ばれたよきだった。
友美は大きく息を吐き出してモニターへ視線を向けた。
二組ともかなり過激なことをしていたのに、アナウンスでは更に過激なことをさせようとしている。
「あのアイドルの子、下着姿になりましたね。それ以上のこととなれば……」
その先は言わなかった。
言わなくても宏だって十分に理解している。
「もうこれ以上の命令はできない。女性の人権を踏みにじってる!」
空間へ向けて怒鳴る宏。
しかしそもそもこの部屋に人権なんてあるんだろうか。
指示に従わないと爆破される。
そんな環境に立たされて人権や法律など言ってみても説得力はなかった。
「死亡してもらいますよ?」
アナウンスは冷たく言い放つ。
その声には感情がなく、まるでロボットのようだ。
「宏、本当に殺されてしまうかもしれないですよ?」
友美が宏の腕を掴んで言う。
いつの間にか呼び捨てにすることを躊躇しなくなっていたが、呼び捨てに敬語なのでなんだか妙な感じになっている。
「でも……」
「私なら大丈夫です。どんな命令でも従います」
強い口調で言われ、宏のほうが黙り込んでしまった。
誰もがここから出るために必死なのだ。
死ぬよりも怖いことなんてほかにはないと思っている。
「わかった」
しばらく考えた後、宏は決心したように友美を見た。
「さっき下着姿になったから、君には全裸になってもらう。それでもいいか?」
宏の質問に友美は一瞬目を見開き、そしてうなづいた。
「そうなると思っていました」
決意を固めた声で言い、パンプスをぬぐ。
次にスーツの上着に手をかけるのを宏は黙って見つめていた。
上着を脱いだ後、ふと友美の目が自分のパンプスの上で留まった。
足先のところに少し埃がついている。
友美はそれを丁寧に指先でぬぐった。
そのしぐさを見ていた宏は社内で友美と初めて会ったときのことを思い出した。
あの時友美はまだ宣伝部のひとりで、ふたりは偶然エレベーターで一緒になったのだ。
宏の前に立ち、回数ボタンを押してくれた友美に礼を言う。
そしてふと視線を落としたとき、友美の白いパンプスが目に入った。
会社の外にある芝生広場を歩いてきたのだろう、緑色の草がくっついてきた。
「汚れが」
宏はそう言うと、友美が止める間もなくしゃがみこんで、自分おハンカチでその汚れをぬぐっていた。
靴は人の顔とも呼べるところだと宏は思っている。
靴の先まできれいにしている人は几帳面で信用できる。
自分の会社の社員たちにもそうなってほしかった。
「すみません社長。ハンカチが」
慌てた友美がそう言うが宏は笑顔で「このくらい平気だから」と、笑ってエレベーターを降りていった。
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