第8話
これでそれぞれの命令が終わった。
宏が画面上で泣いているアイドルを見ていた。
アイドルは新曲の振り付けをまだ覚えていなくてマネージャーに怒られたようで、ボロボロと涙をこぼして泣いている。
しかしその顔を隠そうとはせず、まるでみんなに見せ付けるようにモニターを見つめていた。
大きな目からこぼれる涙はとてもキレイで、思わず見とれてしまいそうになる。
「ではまた社長さんと秘書さんに戻ります」
アナウンスの声に宏と友美は目を見合わせた。
友美は驚いたように薄く唇を開いている。
ふっくらとした妖艶な唇は次にキュッと引き結ばれた。
「まだ続きがあるんですね」
「拒否したらどうなる?」
宏はアナウンスの声へ向けて言った。
「それはもう、みなさんおわかりかと思っていました」
呆れたような声で言われてしまった。
宏はモニターを睨みつける。
「どういう意味だ?」
「もちろん……こうなります」
アナウンスの声がそう言った次の瞬間、どこからか大きな爆発音が聞こえてきて足元がゆれた。
咄嗟に友美をかばうようにしてその場にしゃがみこむ。
「爆弾はどこに仕掛けてあるかわかりませんよ?」
声はくつくつと笑っている。
宏の下で青ざめた友美が震えていた。
くそ……。
宏は歯を食いしばる。
自分はともかく、友美だけはどうにか助けてやりたかった。
友美に命令を出すのは自分だ。
さっきのアイドルよりも過激に、だけど友美に負担をかけないようなものでないといけない。
考えてみたけれど、思いつくようなものはない。
アイドルはダンスをしたから、この部屋を走らせるとか?
それで命令が過激になったと言えるだろうか?
考え込んでいると再びアナウンスが流れ始めた。
「これから2順目に入るので、今度はこちらがお題を出させていただきます。これから先はそのお題に会った命令をしてもらいます」
「お題だと?」
宏はなにもない空間を睨みつける。
相手はまるでゲーム感覚だ。
胸の悪くなるような笑い声はまだ聞こえてきている。
「ここからのお題は性的な命令に、限らせていただきます」
その瞬間部屋の中の温度が下がったような気がした。
宏は目を向いてその言葉を聞く。
「みなさまもう大人です。いろいろなことができるでしょう?」
突然アナウンスの声が粘ついたようだ。
相手は男かもしれない。
だからそういうものが見たいのだ。
「断ったらどうなる?」
宏は震える声で言った。
ついさっき友美だけは守ると決めたばかりだ。
それが性的な命令になれば守ることはできなくなってしまう。
モニター越しだとしても、友美もあらぬ姿を見せることになる可能性もある。
「さっき言ったでしょう? 爆弾はどこに仕掛けてあるかわからないと。もしかしたら、その部屋かもしれませんよ?」
その言葉に宏は唇をかみ締めた。
強く噛み過ぎて血の味が口の中に広がっていく。
「社長」
その時腕を掴まれた。
見ると青い顔をした友美が宏を見上げている。
「大丈夫だ。俺がなんとかするから、心配するな」
そう言ったものの、具体的にどうすればいいか検討もつかない。
相手が言うように本当にこの部屋に爆弾を仕掛けられているかもしれないのだ。
それにあまり長く時間を使ったらきっと急かされるだろう。
カウントダウンなどが始まってもおかしくないかもしれない。
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