第4話
「ジャンケンしましたか?」
質問してきたのは編集者の早紀だった。
「しました。僕が勝って、秘書が負けです」
宏は結果を報告する。
「こっちは私が勝って、昌也くんの負けよ」
昌也は画面の奥のほうで無表情に立っている。
自分が負けたことにあまり興味がないみたいだ。
「あなたたちは?」
早紀の視線が少しずれる。
画面上のアイドルとマネージャーを見ているのがわかった。
「こっちは俺が勝って、かすみんの負け。一体なんのジャンケンなんでしょうね?」
勝ったという京一はイライラしたように部屋の中を歩き回り、アイドルの香澄は部屋の真ん中でそんな京一を見つめている。
「おい、ジャンケンは終わったぞ。次はどうするんだ?」
宏がなにもない空間へ声をかけると、待ってましたとばかりにアナウンスが聞こえてくる。
「みなさまジャンケンが終わったようですね。勝ったのは中平宏さん、中野早紀さん、板原京一さんで間違いないですか?」
「それで間違いないわ」
答えたのは編集者の早紀だ。
「では今名前呼んだみさなまがご主人様です。そして負けた方たちが奴隷ということになります」
『奴隷』という言葉に友美が反応してビクリと体を震わせた。
やっぱりここで私は死ぬんだ。
これはなにかのデスゲームで、それに選ばれて誘拐されてしまったんだ!
途端に頭の中をかけめぐる不穏な予感に喉の奥がひくついた。
「ご主人様になった方は必ず奴隷になにかを命令してください。と言っても簡単ではないでしょうから、順番を決めたいと思います」
そう言うとなにかゴソゴソと動く音が聞こえてきた。
数秒待ったあと、また声は聞こえてきた。
「そうですね。自己紹介の順番にしましょうか。最初は社長さんと秘書ペア。次に編集者と作家ペア。最後がアイドルとマネージャーペア。これでどうですか?」
「一番手……?」
どうにか体を起こした友美が不安げに呟く。
こういうので一番手になるのはあまりいいことじゃない。
一番手ということはなにもわからないまま指示に従うということである。
それで失敗すれば、死――。
そこまで考えてまた倒れてしまいそうになり、左右に首を振って悪い考えを少しだけかき消した。
「それではさっそく、社長さんからどうぞ」
そういわれて宏は友美へ視線を向けた。
青ざめて不安げな友美と視線がぶつかる。
クリーム色のタイトスカートからは細くて長い足が出ていて、つい視線が向いてしまいそうになり慌ててそらした。
「命令と言ってもなぁ……」
宏はそう言ったまま口を閉ざしてしまった。
突然こんな部屋の中に監禁されて、部下に命令しろと言われてもなにも浮かんでこない。
普段のオフィスなら頼む用事もたくさんあっただろうが、今は状況が違いすぎた。
宏はどうすればいいかわからないまま、友美を見つめる。
友美もまた宏をみつめるばかりだった。
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