第3話

不健康そうな細い体に、白い肌。

あまり視線をこちらに向けず自分の殻にこもっているように見える。

20台前半に見えるけれど、本のカバーに書かれているプロフィールでは29歳くらいのはずだ。


編集者と名乗った早紀が「なにか言うことは?」と質問しているが、左右に首を振ってそっぽを向いてしまった。

「先生は人見知りなので、これで終わりです」


昌也の性格を勝手知ったる早紀が早々に説明を打ち切った。

次は友美が一番気になっていた二人だ。

「はじめまして。えぇっと、俺は板原京一。アイドルのマネージャーやってます。って言っても他の仕事もしながらです」


京一は頭をかき、少しうつむきがちに自己紹介をした。

そして隣の少女の背中を押して前にやる。

途端に甘ったるい声が飛び出してきた。


「はじめまして! 私は伊崎香澄。みんなの隣にいつも咲く、かすみんって呼んでね!」

顔の前でハートマークを作ってポーズを決める香澄。

これが彼女の自己紹介の仕方みたいだ。


「その子、すごく若そうですね」

宏がモニター越しに香澄を心配しているのがわかった。

「見た目はそうですね。だけどもう19歳ですよ」


香澄のマネージャーは冷たくそう言い放った。

ここまで売れなかった香澄に嫌味を言っているようにも受け取れる。

けれど当の香澄に気にしている様子はない。


とにかくこれで全員の自己紹介は終わった。

社長と秘書。

編集者と作家。

アイドルとマネージャー。


3組は仕事という共通点はあるけれど、それ以外の接点はなさそうだ。

作家の名前くらいは聞いたことがあったけれど、アイドルのほうはまるで知らない。

次にどうすればいいのかわからなくてまた棒立ちになっていると、タイミングよくアナウンスが流れ始めた。


「それでは次に自分のパートナーとジャンケンをして、勝ち負けを決めてください。その様子はこちらでも確認していますので、勝ち負けの嘘をついても無駄ですよ」

ジャンケン?


宏と友美は目を見交わせた。

ジャンケンなんかしてどうするつもりだろう。

勝ち負けを決めて、その後は?

友美は嫌な予感がして背中に汗が流れていく。


昔、友達に誘われて見に行ったホラー映画を思い出す。

今の自分たちと同じように密室で目を覚ました主人公たちが、次々と殺されていく物語だ。


最後に残った主人公とその恋人がジャンケンをさせられて、負けたほうが殺されてしまった。

その時の凄惨な場面を思い出して凍りつく。

まさか私たちもここでどっちかが死ぬなんてこと、ないよね?


自分の体を抱きしめるようにして部屋の中を見回す。

今のところ殺人鬼や化け物が出てくる気配はない。

「おい、ジャンケンするぞ」

宏に言われて我に返った。


モニターを見ると他の2組はすでにジャンケンを始めていた。

これ、ジャンケンが最後になったら殺されるなんてことないよね!?

悪いほうに向き始めた思考回路を変えることができなくて友美は青ざめる。


「ここはとりあえず言われたとおりにするか」

宏がすべてを言い終わる前に友美は「ジャンケン、ポンっ!」と、手を出していた。

宏は慌ててグーを出す。


友美はチョキだ。

「うそ、負けちゃった……」

腰から崩れ落ちそうになったところを宏のたくましい腕が抱きとめた。


「大丈夫か? 少し横になった方がいい」

ゆっくりと床に寝かされるとヒヤリと冷たいが、今はそれが心地よかった。

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