第2話

2人して部屋の中央で棒立ちになって考え込んだとき、不意に大型モニターの電源が入った。

驚いて視線を向けると画面は大きく2分割されていて、自分たちの姿が右下に映し出されている。


右側の画面には色白で表情の乏しい青年と、スーツ姿の女性が映っている。

左側の画面にはまだ10代の思われる少女とメガネ姿の青年だ。


みんな同じように画面に釘付けになっていることから、その二組にも自分たちの姿が見えているのだろうということがわかった。

「これはどういうことだ?」


「こっちが聞きたい!」

宏の呟きに反応したのは画面左側に映っている男だった。

「声が通じているみたいです」


友美の鼓動が高鳴った。

誰だかわからないけれえど、モニター越しに会話ができるなら今の自分たちの状況を説明することもできる!


「お願いします助けてください! 目が覚めたらこの部屋にいて、出口が見つからないんです。おそらく隠し扉だと思うんですが……。スマホも没収されていて、外に連絡が取れないんです!」


画面へ向けて懇願するように自分の置かれている状況を説明する。

説明しながら、どうして自分たちがこんなところに閉じ込められないといけないのかと理不尽な気持ちがわいてきて、唇をかみ締めた。


「待ってください。それはこちらも同じです」

目を丸くしてそう言ったのが画面右側のスーツ姿の女性だった。

「え?」


「私と彼も、目が覚めたらこの部屋にいて出口も、外への連絡手段も見つけられないんです」

冗談かと思ったが、女性の目は真剣そのものだった。


「こっちも同じだよ。誰か助けて!」

左画面を見ると10代の女の子がフリルたっぷりの服を揺らして画面へ向けて両手を振って助けを求めているのが見えた。


友美は思わず後ずさりをして他の4人を見つめた。

みんな友美たちと同じ状況だというのは本当だろうか?

この人たちを信用できるんだろうか?


判断材料が少なすぎて混乱しそうになったとき、まるで助け舟だとでもいうように室内に声が響いてきた。

「みなさまお目覚めですね。おはようございます」


それはボイスシェンジャーで変換された、妙な声だった。

他の二組にもその声が聞こえているようで、しきりに部屋の中を見回している。

きっと、どこかにカメラやスピーカーがあるはずだ。


しかし目視できるような場所にはなかった。

モニターの中に隠されているのかもしれない。


「みなさまモニター画面は見えていますか?」

その言葉に視線は自然とモニターへ向かう。


他の二組もジッとモニターを見つめていた。

睨みつけたり、不安げだったりする。

「今この建物の中には3組の男女がいます。まぁ、まずは自己紹介といきましょうか」


その言い方がなんだか気に障ったが、名前を知っていれば呼びやすい。

これからどうすればいいかの相談などもしなければならなくなるかもしれないし。

友美は秘書らしく冷静な判断をしてうなづいた。


「社長。ここはアナウンスの声に従ったほうがいいと思います」

「あぁ。そうだな」

宏がうなづいたとき右モニターに映っているスーツの女性が興味を惹かれたように「社長さんなんですか? どこの会社ですか?」と、質問してきた。


ちょうど自己紹介をしろと言われたところなので、宏は会社名と自分の名前を名乗った。

その後友美のことも紹介してくれた。

「すごい、大手企業じゃない」

「あなたは?」


友美が画面越しに質問すると女性は背筋を伸ばした。

「私は○○出版の編集者です。中野早紀です。こっちは私が担当している作家の白鳥昌也。ペンネームは白鳥夏」


その作家名には聞き覚えがあった。

たしか2年ほど前にデビューしたばかりだけれど、そのデビュー作がヒットして今年映画化されるはずだ。

友美は一歩前に踏み出して白鳥夏の顔をまじまじと見つめた。

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