愛は距離をも超越する!

「姉さん、大変だ!」


 私が部屋でユーリの為の木刀を作っていると、突然カイが飛び込んで来た。


「どうしたのよ、カイ。部屋に虫でも出たの?」

「違うよ! 一体いつまで虫が苦手だった頃の話を引っ張るのさ! そうじゃなくて、ユーリさんが大変なんだ!!」


 それを聞いた途端、私は勢いよく立ち上がりカイに詰め寄った。


「どういう事! ユーリがどうしたの!?」

「ね、姉さん、おち、落ち着いて! 首が絞まってるから!?」


 おっと、いけない。勢い余ってカイの首を絞めていたようだ。

 それから私はカイの話を改めて聞くと、事のあらましを把握した。話を要約すると……ユーリが家出して森から帰って来ないという話らしい。


「昨日の夜、両親と冒険者のことで喧嘩して家出。それで翌日の朝になってもまだ帰って来てないと……それでユーリの行先は森で間違いないのね?」

「それが、『僕でも魔物を倒せることを証明してやる』って書き置きを残していつの間にか居なくなっていたらしいんだ」


 両親がその置手紙を見つけた時には既に外は暗くなっていて、急いで自警団に飛び込んで事情を説明するも今は魔物の活動が活発化していて捜索にも行けない状況だったらしい。

 そして今朝になり、自警団から捜索隊が出てその情報がカイの元に来たという訳だ。


「すぐにユーリを探しに行くわよ! カイも準備して!」

「探しに行くったって、森は広いよ! どうやって探すのさ!?」

「大丈夫。私の愛は既に距離をも超越している」


 そう、それは私がコーザさんの訓練を受けだしてから幾日か経った頃だった。何の前触れもなく、私の愛が……覚醒したのだ!

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あぁ、今頃ユーリは何をしているのかしら。最近は訓練の所為で会える時間が減ってしまっていけないわ」


 今頑張っているのも、いつの日かユーリが冒険者として旅立つときに私も一緒について行くため。けれど、その所為で今一緒に居る時間が削られているという事実に辟易としてしまう。

 そんな苦悩を感じている時、突然私に変化が起きた。何と言ってよいのか分からないが、ユーリを感じるのだ。より厳密に言うのであればユーリの生命力を感じる。

 そのユーリの生命力に集中することによって、その感覚は更に鋭敏になり、ユーリの居る位置や動きなどを感じることが出来るようになった。


「これは……私の愛がついに距離をも超越したのね!!」

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「と言うことがあったのよ」

「それってもしかして、限られた拳闘士だけが使える『闘気術』じゃ。……いや、でも闘気術で他者に影響を及ぼす距離ってそんなに広くなかったはずだけど」


 カイは、私が拳闘士を目指すと言ったその日から色々調べてくれていたみたいで、その中に闘気術という技能があったそうだ。

 闘気術は自身の内にある闘気というエネルギーを使い、自身の戦闘能力を底上げしたり、他者の闘気に干渉して体の状態を調べる事が出来るらしい。

 けれど、通常その技は自身のすぐ近くの者にしか使えない為、遠く距離の離れたユーリの闘気に干渉するなど普通出来るはずはないと言う。……つまりは愛の成せるわざなのだろう。


 今は考察している時間が惜しいとカイに無理やり準備を整えさせて、私たちは森へと向かった。


 ――すぐに行くから待っていてね、ユーリ!

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