第50話 勇者カイトSIDE 3日間


たったの三日間。


だが、この三日間は……途轍もなく無力を思い知らされる日々だった。


オークに襲われている。家族に出会った。


すぐに間に入りオークは倒したものの、家族を庇っていた父親は重傷を負っていた。


マリアが治療に入ったが……


『お父さんを助けて』『聖女様助けて』


マリアは懸命にヒールを使ったが、そのかいも無く死んでいった。


それでも、死につつある父親もその家族もマリアにお礼を言っていた。


リタもリアもたったの3日間の間に挫折を知った。


助けられないジレンマ。


弱い自分達。


それを知ったら……もう駄目だった。


異性を抱く快楽も、酒に酔う事もただ、ただ虚しい。


あの目……悲しい目。


あの目が全部奪う。


死ぬ気でやらなくちゃ駄目だ。


死ぬ気でやらないと……あの目を見た時に正常じゃいられなくなる。


俺達がやらなくちゃ……駄目なんだ。


『勇者パーティ』


世界を救うからの破格の待遇。


破格の褒賞。


場合によっては貴族すら超える特権がある。


その一つに王侯貴族にしか認められてない一夫多妻がある。


上位貴族で4人、下位貴族なら3人、王族ですら6人を越えて婚姻は結べない。


だが、勇者パーティの婚姻に上限は無い。


これは、俺達が世界を救うから受けられる待遇だ。


俺達は馬鹿だったとしか言えない。


それ程の待遇を受けながら……腐っていた。


◆◆◆


時は戻って今。


「リタ、真っすぐに斬り込んでくれ」


「了解、いくよーーっ」


「マリアは後方に下がって、リアの傍にいてくれ」


「わかったわ」


「リアは、俺とリタを避けるようにしてファイヤーボール」


「うん」


「俺はリタに続いて斬りこむ……頼んだ」


俺達は今、上位種のオークの群れが住んでいる。オーク砦という洞窟で戦闘をしている。


頑張ればオーガも狩れるが、まだ余裕で狩れるわけじゃない。


だから、一ランク落とした討伐を受けた。


此処で少し力をつけたらオーガを本格的に狙っていく。


リヒトがいう『超人』の意味が最近解った気がする。


俺達勇者パーティの人間は努力すればするほど簡単に強くなる。


今の俺達が少し前にゴブリンに苦戦したなんてきっと誰も思わないだろう。


もう既に10体以上のオークを仕留めているが、誰も疲れた感じがしない。


「流石にオークは余裕だね……もっと強い奴を狩りたいな」


「リタ、調子になり過ぎだ! まだ先は長い。この奥には最低でもオークジェネラル。場合によってはオークキングが居る。気を引き締めて行こうぜ」


「了解」


「他の皆も気を引き締めていこう。リヒトから言われたし経験もしただろう?」


「そうね、確かにその通りだわ」


「うんうん、ゴブリンの時に足元救われそうになったもんね」


「解れば良いんだ。行くぞ!」


簡単に進む時こそ注意しろ。


リヒトもそう言っていた。


まだ、洞窟に入ったばかりだ。


この先、何があるのか……まだ解らない。



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