第49話 勇者カイトSIDE 目のあたりにして


街道沿いをリヒトを追って歩いていた。


四人で楽しくイチャつきながら、話しながら……


その途中、小さな子供が目に入った。


可愛らしい少女だが、死んだ様な目をしてお婆さんに手を引かれていた。


よく見ると兎のぬいぐるみを抱えて、服には血がついており、何やらブツブツと小声で独り言を繰り返し喋っている。


そしてお婆さんは焦点が定まらず、ただ黙々と歩くだけだった。


足元を見れば、靴も履いて無いし、体中に小さな怪我をしていた。


俺達は勇者パーティだ。


困っている人を見たなら……助ける。


それが仕事だ。


聖女のジョブを持つマリアが飛び出した。


「何があったのか解らないけど、怪我治しますね……ヒール。はいこれで大丈夫です。今度はお婆さんもはい、ヒール」


「お姉ちゃん……ありがとう」


「ありがとうございます……」


焦点が定まらない目でオドオドしながら、お礼を言ってきたのだが、何故かお婆さんも少女も俺の方を見ている。


何故か、その目に怖さを感じた。


これは……どう言う目なんだ。


「勇者カイト様……」


「勇者様……でしたか?」


勇者という名前が相手から出たのに、何故か悲しそうな、濁った目でこちらを見ている。


こんな目で見られたのは初めてだ……


「そうだよ! 此処に居るのが勇者カイト! 僕は……」


空気も読まずにリタが答えた。


「勇者様、なんで……なんで来てくれなかったの? うっうっうえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーん! 勇者様が、勇者様達が来てくれなかったから……うぐっひくっ、うえぇぇぇぇぇぇーーん。お父さんもお母さんも皆、皆、死んじゃったんだよぉぉぉぉぉーー! 友達も近所のおじさん、おばさんも皆、皆……死んじゃったんだよーーヒクッうぐっ」


少女は俺を見るなり泣き始めた。


そうか……そう言う事か。


「俺は……」


何も言えなかった。


少女とお婆さんを見れば解る。


恐らく、村を魔族か魔物に襲われて、此処まで逃げて来たんだ。


何も持ち出せなかったのだろう、荷物らしい荷物は持っていない。


「……やめなさい……勇者様達だって頑張っていたんだよ……だからやめなさい」


「だけど……お婆ちゃん……悔しいよ! 勇者様達が来てくれていたら、お父さんもお母さんも生きていたんだよね! リリちゃんも皆、死ななかったんだよね!」


「そうかも知れない……だけど、勇者様達にそれを言うのは間違いじゃよ」


「うっうっグスっ……スン。そうだね……」


リヒトが言った事を甘く見過ぎていた。


『勇者の旅は救世の旅。人々を救う旅でもあるんだ。その旅の中でオークやオーガ等に襲われている村や町を救う。助けてあげれば『勇者様ありがとう』となる。その反面、今みたいにサボっていると、村や町が滅んで『なんで勇者様来てくれなかったの』と生き残った人に一生恨まれる。そのうち、歩くだけで石をぶつけられるようになる事すらある』


その通りじゃないか。


俺は……『死ぬ程努力する』べきだった。


俺が努力しなければ……その分誰かが傷つき死んでいく。


俺の行動や生活は俺の物だけじゃ無かった。


村や街を滅ぼすような数の強い魔物。


恐らく、今の俺達がその場に居ても救えない。


きっと、逃げだすか、死ぬかしかない。


それでも……救えなくとも……ハァハァ努力をするべきだ。


俺は、いや俺達は、苦しんでいる人、死んでいく人が居るのに遊んでいた。


たかが、ゴブリンに怯えて引き篭もっていた。


『努力していた』


そんな事すら、自分に言い訳が出来ない。


そんな俺が二人になんて声を掛ければ良い……


胸が痛い。


胃が痛い……


後悔の気持ちで一杯になる。


せめて、真摯に話すべきだ。


「ゴメンな、俺は勇者だがまだ修行始めたばかりなんだ、だから弱い……だけど約束するよ! これから頑張って強くなって、必ず敵討ちする……君のお父さんやお母さんを殺した魔物は必ず殺すから」


「僕も剣聖の名の元に約束するから……」


「うっうっだけど、お父さんもお母さんも皆、帰って来ない……うぐっ」


マリアとリアは黙っていた。


そうだよな、俺が魔物を倒したってこの子の両親は帰ってこない。


「勇者様は頑張っている。 だから仕方ないんじゃ。勇者様ありがとうございます。この子の話につき合ってくれて……必ず魔王を倒してください……陰ながら応援していますから……」


泣いている少女の口を塞ぎお婆さんは頭を下げて立ち去った。


『俺は馬鹿だ』


恐らく、あの少女やお婆さんの居た村に、今の俺が行っても救えなかった。


それは間違いない。


弱いからだ。


それじゃ努力をしたのか?


俺達はしていない。


勝てないのは仕方が無い。


だが、俺達はその前の強くなる努力すらしていない。


『頑張っている』


そんな事も胸を張って言えない。


『勇者』


今の俺には相応しくない。


今の俺には尤も似合わない言葉だ。


もうだらけるのは止めた……ここからはもう、今は口に出さない。



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