空の塔 第5節
私は経度な汚染区域で耐性塗装されたドローンを動かしている。機関が回収に成功して量産化に成功した技術らしい。あの探索以来、施設の理解が一気に進んだらしく、様々な技術が降りてきている。強力な物は秘密のままなのかもしれないが。
『どう?』
「異音なしだよマネージャー」
『通信感度は相変わらずだけど、脆弱性は全然変わらないわ。』
現在、第7地区内に6台のドローンを同時展開してサルベージを行っている。そのまま回収できる物や、写真撮影だけが目的の場合はドローンで作業を完結させ、そうでなければ我々が生身で向かう事になっている。この事業を開始してからすでに数か月経っており、我々同様に退役した高耐性保持者が何人も加わっている。状態の良い天使もさらに何人か見つかり、身元の判明と遺族への通知が完了している。ますます除染技術が求めれてきたな、という印象である。火葬でも構わないと言った人が居たが、残念ながらそれは解決にはならないのだ。腐食した物体は焼いても腐食波を放つため、骨壺に入れて居住領域においておくにはあまりに危険なのだ。
『なぁ、なんとかなんねぇもんかね』
「なにが?」
『反転場だよ』
ブラザーは反転場による除染に関しての危惧があるようだ。それと言うのも、この事業が存在する理由が問題なのだ。資金調達のためのプレゼンでも、多くの人が理解していない事だった。腐食した物体をタワーの反転場で除染すると、その除染速度の速さのせいでボロボロに崩壊するのだ。汚染が酷ければ酷いほど、その物体は跡形もなく崩壊してしまう。骨粉とも言い難い、ただの砂と化してしまうのは、あまりにいただけない。
その日の作業を終えた私は家に帰り、資料をまとめるために拡張端末の前に居た。何か解決策はないのかと悩みながら、机に置いたギアスーツのコアメモリを眺める。あの探索の時、“彼”はこのコアメモリに自身のデータを圧縮して入れたはずで
『うまくいけば目覚める事が出来るかもしれない』
と言っていた。きっと彼なら何かの技術を持っているかもしれないという期待をしながらも、他人に頼ってしまうのは不本意だとも感じていた。
「君が目覚める事はないのかな」
マイク入力はないので聞こえるはずはないが、彼ならとんでもない技術で聞き取っているかもしれない。
翌日、我々は新しい区域の事前調査を行った。そこにはかつて、地球外施設群(通称アウターワールド)の遠隔サブメンテナンス施設と、そこに務める人々の居住地域が広がっていた。地球上の復興が完了すれば、次は地球外施設の復興へと進んで行く事になる。そのために施設の状況を遠隔で把握する必要があり、大崩壊によって回収されなかったデータを回収する事が喫緊の課題になっているのだと、機関から依頼された。機関の部署のほとんどは地球復興が最優先であるため、手すきなのは地球上でわれわれのみなのである。
さて、機関からの依頼という事で航空機の導入が許可されていたため、この辺境の地域まで行くのにはそこまで苦労しなかった。この場所は南極大陸。ゲートが活躍していた全盛期には、かつて隔絶されたこの大陸は“空き地”でしかなかった。しかし、農業は出来ないし、厚い氷のため鉱業が栄えるわけでもない。場所さえあればよい、という事で割り振られたのは、アウターワールド関連のすべて施設だった。アウターワールドは一般人が用事のある場所ではないため、猶更利便性のある土地に作る必要はなかった。
今回の任務は各施設メインブリッジにたどり着き、合計7つのキーデータを回収する事である。荒廃し汚染された施設はもろくなっている。倒壊の危険に気を付けて探し出すという点では今までの仕事と同じであった。何なら、一般人からあやふやな情報でサルベージを行うよりも、目的の場所がはっきりとしているのはありがたかった。我々は二班に分かれ、航空機に残り案内する班と、私を含めて下で探索する班だ。最初の3つである火星施設・アイシャ太陽近傍プラント・第2木星静止軌道施設のデータは至って簡単に回収する事が出来た。それぞれの施設に大規模な崩壊がなく、直接接続されていたため室内を歩いて到達できたためだ。しかし、次に向かう先で我々は困った事になる。問題の施設は第1木星低軌道施設の関連施設だった。入れるかもしれないと想定していた場所がすべてことごとく倒壊しており、侵入する事が出来なかった。
『地上からスキャンする限りでは、爆破するとか穴を掘るとかするしかなさそう』
「えぇ・・・」
「目標のメインブリッジは一階だろ?屋外歩いていけないのか?」
マネージャーが施設側面のスキャンを始めた。しばらくして終えると詳細を伝えた。
『二個無事そうな屋外ハッチがあった。居住施設の外を辿って歩けば行ける。』
『これから一時間位はブリザードが酷い。積雪に混じった腐食した物質がまき散らされるからスキャンが乱れるから注意で』
「了解」
こうして我々はブリザードが吹き荒れる中、誰も居ないゴーストタウンを歩く事になった。ギアスーツのおかげで寒くはないし、視界距離はあの星よりずっとマシである。降り積もった雪は厚く、一部では小さなクレバスのようになっている。施設の保全装置が働いていないため積雪し放題なのだ。
「入口ないな。基本地下移動なんだっけ?」
我々が歩いている場所は本来の地面より4メートルも高い位置であるため、目線の高さに見える建物の窓は全て地上二階以上のものである。
「積雪があるから今は高い場所をあるいてるんだよ。」
「あぁ」
話す事が大してないままもくもくと歩いていると、私のバイザーの映像が少し乱れた。
「HUDが調子悪いかも」
「調子悪いとかあるのか?」
HUDは明滅を繰り返し、表示する情報が度々切り替わっていく。勝手に表示モードが切り替わっているような感じだ。モードの切り替わりが2、3周するとサーマルモードで止まる。画面には熱源探知の警告が表示された。
「2時方向の建屋内に熱源。」
私は画面に映し出された情報を報告した。
『吹雪で見えてない』
「吹雪とかじゃない。俺らも見えてない。」
「博士、再起した方が」
「はっきりと、確実に建物の中に映ってる。摂氏14度位の、1.6mの細長い物体がバグで見えてるとは思えない。見に行かせて。」
私の先導の元、大窓に穴をあけて中に入った。熱源は依然見え続けており、ドアを一枚挟んだ隣の部屋である事が分かった。ドアをこじ開けてそこに見えたのは、腐食波でなくなった人の遺体、天使であった。しかし異常な事にその天使は、あの赤い砂のように所々が赤く発光していたのだ。唖然として見えていると、わずかに非常にゆっくりとした体動がある事が分かった。
腐食波と”赤砂”について ■■■■■ ■■■■大尉
腐食波の被害と赤砂と通称されている物質は明らかに関係性があると考えられているにも関わらず、腐食波による汚染区域に忽然と現れる事、反転場やヘッテルアンテナによる除染により微量に消失(昇華などの相転移ではない)する事が観測されている程度であった。しかし、この度のヘイアル文明文献調査により、腐食波と赤砂についての関係性を示唆する文言が発見された。以下に引用する。
No.23617461より
赤い石は、変化完了ののちに再編された物であり、この時点で完全に置換される。呪いの言葉を生み続ける口となる。
引用において記述された表現は強化学習翻訳に基づくため、本来の意図された表現でない可能性を考慮し、我々で解釈する必要がある。よって解釈しまとめた場合、「赤砂は転化が進行しきった後に物質が再構築されて出来上がる。腐食波の発生源となる。」である。つまり腐食波による転化で赤砂が出来て、またそれが…という連鎖反応を引き起こしていると言える。
空の塔 第3巻 新生編 YachT @YachT117
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