空の塔 第4節

 『降下作戦なんて…この星でするなんて』


 俺が先の作戦で遭遇した航空機から新たな航空機を作ったのだ。高濃度に汚染され、強い腐食波で満たされた世界でも消耗少なく飛ぶことが出来る飛行機だ。ただし、ヘイアルの純正品には程遠い。また、一部の地形データから他の敵基地を思われる場所が明らかになっていた。これらを利用し、小規模施設への侵入と共に情報収集を行う事となった。


 「スキャナーじゃ見えない…」


俺は窓から下を覗いた。いつもは頭上を覆う巨大建築が目下に広がっているはずだが、霧でなにも見えない。するといままで一人で話していたオペレーターが待っていたように反応した。


 『地形データと慣性データから仮想データを構築するからそれでナビゲーションデータを提供するから心配いらない。』


 「アルファオペレーターやめろ。データとかばっか出すな」


 『君と私しかいないんだ。慣れてくれ。私は体を動かさないから暇なんでね。あぁでもパイロットを兼任しているから暇でもないが、とはいえほとんどアシストだからー』


 単独または少数での行動。チームが構築されていたとしても、それぞれのメンバーは単独行動である。今回は珍しくオペレーターが居るらしい。よりによって口うるさいタイプかもしれないと予想された。前述の通り、単独行動の多い我々にはコミュニケーションに関して…特徴的な者が多い。60%は寡黙、35%は全くの無口、残りはとてもうるさい。これはその残りだ。かれは話を続け、ある時点で突然止めてアナウンスをした。


 『降下地点まで5分。セットアップの確認を』


スーツの密閉性、統合端末の反応性と健全性、視界システムの良好さ、AI補助システムの遅延、スラスターおよびジェットパックの動作点検などなど一通りを行う。地点にたどり着くとオペレーターが合図する。私はそれに合わせて側面ハッチから飛び降りる。地球上での降下ならば当然経験があったが、この星では初の試みである。下に降りるほどにに強くなる腐食波を感じながら、約40秒の落下を経験した。ジェットパックの補助によってソフトランディングを決めて、建造物の屋上でレーザー中継器を設置し敵施設の探索を始めた。


 「作戦開始。」


 『レーザー通信感度良好、作戦開始了解。』

 『目下敵性熱源3。汎用装備検知。』


 俺はオペレーターからの指示を受け、施設内の敵の位置を確かめつつ探索を進めていった。スキャンした敵の位置を表示したままの探索はあまりにも簡単で、ズルをして行うゲームの様だった。


 『エージェント熱源ロスト。原因不明。』


 「天井の材質が違うかもしれない。スキャンする。」


 俺が入った部屋は倉庫だと思われた。不安定なエネルギー資源などが数多く見受けられたため、何かの防護壁があり、それが熱検出を阻害しているかもしれないと予想された。そして予想以上の結果として、壁や天井の中に正体不明の構造物が検出された。磁気を帯びた何かが内部に敷き詰められているようだった。


 『なぁんだこれ。進化版ファラデーケージか?』


 「それ特有のノイズがない。別物だろう。」

 「職員を拘束して尋問を試みる。」


俺は施設内にいる3人のうち、特に孤立した一人を捉え尋問した。機関直伝の拷問術を重ね合わせ聞き出せば簡単に達成出来ると思っていたが、期待は裏切られた。


 「貴様らには言わん」


 『2アラフェンタニル入れたんだよな?』


 「そうだ。ほとんど泥酔状態のはずだ。」


 「貴様らには言わん」


 「強固な洗脳かもしれん。外科手術までされてるとか。」


 敵は同じ言葉を永遠に繰り返すのみで一切の進展がなかった。高耐性保持者は内臓機能が強化される傾向が分かっており、自白剤を含むぼ歩すべての薬剤に対して強い耐性を持っている。今回使用した薬剤はそれに対抗して作られているため、本来であれば機能するが、一切の降下を示していなかった。あまりの利かなさに困惑と恐怖を覚えた。傷を与えるなどの拷問も効かずどうしようか考えあぐねていたころ、俺尋問を行う部屋の扉がノックされ、開いた。


 『熱源が突然出て来た!!!』


 「あぁすまねぇ。調整中かよ。」


 それは上官と思しき人物であった。調整中という意味の分からない言葉を理解しようとしながら演技で誤魔化そうと口を開くと、それを遮るように大声が聞こえる。


 「そいつ侵入者です!!」


上官は銃を引き抜き俺を撃とうとした。初弾を受けながらも蹴り飛ばすと、手すりを飛び越えて落下した。


 『意味が分からん!!サーマル反応だ!逃げろ!!』


あまりに忙しすぎる。こんな少人数の施設での簡易的な探査だとおもっていたのにとんだ波乱である。さて、どこからともなく出現したサーマル反応は俺の直下を示しており、今からの脱出ではとても間に合わなかった。対策を考えるために部屋の外に出て道を見まわしていると、他の職員と思われる人物は必死の思いで武器庫へ向かっているのが見えた。俺も、奴と同様に必死に走りついていくと、まさに武器庫の扉が閉じられようとしていた。無理矢理こじ開けてタックルしてそいつ事中に入る。わずかに空いたドアの隙間から閃光が入り込んでおり、サーマル攻撃を受ける間一髪であった事が分かる。慌てて立ち上がりドアを密閉する事に成功する。一息つけるかと思ったのもつかの間、相手が適当な武器を手に取りこちらに向けている。その手は震えており、とても戦闘が出来るよには見えなかった。


 「無駄な事をするな。命を懸けるな。」


 「う!うるさい!!ひざまz・・・貴様らには言わん」

 つい先ほどまであった手の震えは消え、指先は確かにトリガーを引こうとしていた。明らかに何かの手段で操られているのが分かる。その後はしばらくの間硬直し、俺が動いても固まったままだった。ゆっくりと近づき武器を取り上げようとすると、強い地震が起きた。様々なイベントが今すべて起きるようになっているのだろうか。そんなようにうんざりしたところで極めつけとして、数秒間の無重力状態が訪れた。サーマルのせいか建物が破壊され、武器庫が落下していたのだ。正体不明の技術でサーマルの熱線は防げたものの、武器庫が乗った基礎が壊れたのではこうなっても仕方ない。武器庫内の照明がすべて落ちた頃にやっと静寂が訪れ、立ち上がる事が出来た。フリーズしていた敵は気絶しているようで、簡単に拘束出来た。


 「クソが・・・なんなんだ。」


熱膨張で開けずらくなったドアを無理やり開けると、周辺に焼野原とがれきの山が広がっているのが見えた。サーマルだけではなく、核爆弾のような物も同時に作動していたのだろうか、腐食波に交じって放射線が検知された。


 『エージェント!!おい生きてんのかよ!!』


 「音量を下げてくれ。」

 「捕虜一名確保だ。回収してくれ。」


端末からとれる情報は一通り取っているし、捕虜もできたのでそれなりの成果であろう。心配は、この施設の破壊が新生人類軍の他の部隊へどのように共有されるのかという事である。無線通信の類は検出されていないが、地下の有線通信の可能性がある。早急に追加メンバーによるがれきの調査を行う必要があるだろう。






 新生人類軍内の洗脳技術に関して


 新生人類軍は、その構成員の多くが過激な思想を共有し組織として成り立っている場合と薬学的、精神医学的アプローチによる洗脳をベースとした価値観の植え付けによって成り立っている場合の二種類だと考えられていた(人類軍はそのようである。)。しかし。ここ最近で確保した捕虜はほぼ全員が強い認識の刷り込みがある事が明らかになり、それは従来の方法では実現不可能な強度であった。

 以上のような刷り込みを行う場合、脳内に制御装置を移植するなどの外科的操作が必要である。しかし現時点でそのような痕跡はなく、原因不明である。我々の関知していないヘイアル文明技術を用いている可能性が十分にあり、プロジェクト22の利用によって逆説的解析がおこなわれる事が求められる。

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空の塔 第3巻 新生編 YachT @YachT117

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