神との契り
「……やれやれ、じゃ。寄る
彼女は
「なぜ老いを選ぶのか、私には分かりませんね。」
彼女の背後に満天の星空を切りとったような夜の神が現れる。
「お前にゃそうじゃろうね、ラインハルト。あいかわらず
「私は美の神ですから。レオンの期待を
ラインハルトの
「そんで、あいかわらず大バカだわね。あいつが私の今に
「現にあの方はこの六十年間、何度もあなたを止めたでしょう。納得していないに決まってます。嫉妬なんか、ありませんよ。うつくしくないものに嫉妬などしない。」
「だが私はとっくに決めていたのさ。私はじーちゃんのようなイケババァになるってね。別にあいつを残して死ぬわけじゃあない。
「そうだったのか。ありがとう、サンリア」
みずみずしい少年の声がしたかと思うと、ラインハルトと魔女は、白い洋館のテラスに移動していた。
「……もうサンリアとは名のっていないんじゃがな。エズベレンド十七世、エズベレンド公、タナルキア
「ああ、そういう面倒くさいとこ、じーちゃんにそっくりになったな。あのサンリアが俺の中でサンリア以外であるもんか」
「誰が面倒くさいじゃと!?」
現れた少年に
「……お帰り、俺の一番大切な人」
「ああ、帰ってきてやったわ。おもしろい報告もあるんじゃが、私の
「もちろんお前だ。さんざん待たせやがって! 本当に、お前は鳥みたいに自由に……いつ俺の見てないところで
「なんじゃ、いつになくよう口が回るじゃないか。でも私が短命種のままでいたから、お前は
長命種は子ができにくいようだと分かりはじめたのは最近のことだ。特に誰もそれについて
「それはそうだけどさぁ……いやそれならマルタが産まれた段階で止めてもよかったんじゃ……?」
「……チッ。本当に今日はいつになく気がつく奴じゃ。さては
するとレオンは魔女のくちびるにキスをした。
「おばあちゃんにキスする物好きなんて俺しかいねーよ」
「なるほどねぇ」
サンリアは
「……してませんよ、嫉妬なんか。」
ラインハルトはそっぽを向いた。
「……はい、終わったよ」
「
「ディスティニーの権能使うだけだからな。相手の気持ち以外、なんの準備も要らない」
「……契約とは言ってるが、実際は契約じゃないってこと?」
「ま、確認ってとこかな。本当に長命種になってもいいのか?っていう。俺との契約って言えば
「そうか……。うん、やっぱり私は魔女タナルキアになれてよかった。レオンが待っていてくれたお
レオンは本当はサンリアに、常に一番そばにいてほしかった。しかしそれは彼女の意思を
そして、小鳥はようやく年老いて、彼の手もとに
「しかし、年寄りしゃべりが抜けないな……そのままだと長老
「いいんじゃ。精神年齢は昔っから一番上じゃったしな!」
魔女タナルキアは
魔女タナルキアが長命種となった、というお
魔女の手を取り嬉しそうにはにかむ夜明けの神と、顔じゅうシワだらけにして嫌そうな表情をあらわにしつつもその手を
お
「ふふ、母さんがついに折れたか」
ニコニコと笑う中年の男。オレンジ色のツンツンした短髪にはすでに白髪が目立っていた。
「なんでサリオンがここにいるんじゃい」
「俺が呼んだんだよ」
タナルキアが嫌そうな顔をしたので
「そうそう。レオンが、母さんきっと疲れて帰ってくるだろうからって」
「冷やかしなら帰っとくれ」
「冷やかしじゃないさ。
サリオンの顔がくしゃっと
「……さようなら、母さん、いや魔女タナルキア。ヒトの生はあなたにとって幸せな時間だったか? 俺は、あなたに
「……お前とマルタ、エンシィさんとカストルさん。皆が自分の生き方を大切にして、長命種、短命種の差を乗りこえてお互い認めあって支えあって生きている。レオンと私には何よりの親孝行じゃったよ」
「二人とも過去形にすんなよな! 俺もサンリアも、ずっとお前らのことは大好きだよ」
「……そういうとこじゃぞ、レオン」
「ホントだよ、俺らはしんみりしてるってのに……まあレオンは子供だからな」
「なんだよー! 子供ができて生意気になったんじゃねえの」
食って掛かる幼い父親を笑って流しながら、サリオンは過去の自分を思いだす。
反発したこともあった。父親だと認めたくない思いもまだある。しかし自分にも子供ができた。子供や孫の
彼自身は家族としてありたいようだったが、サリオンからすると、やはりヒトと
老いを選べなかった少年。世界をその小さい背に負って立つ少年に、サリオンはずっと……
憧れは距離を
妹のマルタはカストルとの間に子を作った後、長命種に転じた。それは彼女の選択であり人生だ。父を、神をどう支えるか、どうつきあっていくかは、ひとりひとりが決めればいい。ほかでもない母がそうしてきたように。
「ま、長命種になったとて死なんわけじゃないからの。ここでサヨナラを一度言っておくのは悪くないわい」
「相変わらず母さんは
「ふん、魔女タナルキアは優しくて正直なんじゃ。……心配は
「お似合いの二人になりそうだな! いでッ」
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