森の向こうから来た賢者
クリスはカミナと学園付属の王立図書室に
「カミナ、計算は出たか」
「ああ。
「三メートルか……。
二人は夜明けの神の司教の一員として、
二人はフチーの権能を夜明けの神から
「……ふぅ……疲れた。
「おっ、俺にも頼むよ。今日はリノが飲みたがってる」
「んじゃ、面倒くせぇ方だな」
カミナがニヤリと笑う。そういう笑顔はやっぱりリノに似ているな、とクリスは思う。そのうち、またトニトルス並の技術都市になったら、リノモジュールのアバターを作ってやろう。そうしたら、インカーと三人で……
『昼間っからナニくだらねーこと考えてんだよこのドタマピンク野郎』
脳内でリノが
(なんでだよ、やってみたくないのかよ)
『バカじゃねーの? インカーがリノの体の僕になびくわけないだろ。あいつにとっちゃ僕はクリスの一部なの。突然自分より
(……そういうもん?)
『っとに、お前もあいつも似た者夫婦だよな。自己評価どうなってんの? 僕のことが好きすぎて自分のこと
(いや、俺は興奮するからインカーもてっきりそうかと……)
『ムリ。キモい。頭から珈琲被ってしまえ』
(珈琲
大樹の枝や
カミナがゴリゴリとハンドミルを
「……そういえば、さっきの計算なんだけどな」
「ん? なんだ、不安材料でも?」
「いや、あれは〈無〉から水が
「ほう……? どういうことだってばよ」
「フチーは、あの
「無から湧きだしてるんじゃないならそうなるよな。どちらの仮定が正しいか判断するには……もう少し日数が必要か。でもフチーは、どうしてそう思ってるんだ?」
「ヌィワが、まだ海底のどこかに
「……なるほどね」
ヌィワとフチーはどうやら親密な仲だったらしい。自身が人の子の中に逃げこんだように、ヌィワも〈海の卵〉として、母なる深海へ生きて逃げこんだ可能性を、捨てたくないのだろう。
「フチーはロマンチストなんだなー」
「ふふ、我々の
「……そいつぁもっともだ!」
科学者でありロマンチスト。愛に生きることで自身を見失わなかった者達。夢の実現のために、日々の積みかさねを
──────
天空都市トニトルス、
ショッキングでセンセーショナルなニュースが世界中を
〈
「あー、しかしまさかこんなポンコツが日の目を見るとはねぇ」
スキンヘッドの男は大きな一人用のクアッドコプターを
「おい、そっちはどうだ。腹すかせてねえか?」
「モルガン
「兄さんに言ってもムダですよ、頭が前時代のままなんですもの」
巨大な
「んだぁ? そっちが俺についてくるから一応気ィ
「一応こちらは身元がバレては困りますので、依頼という形でご貴殿に同行願っているだけです。もろもろの条件を飲んでいただけないならここでお別れということになりましょう」
「だから、頼んでる側がなんでそんなに偉そうなん……」
「兄さん、私お腹がすいたわ!」
「……ったくよぉ。神妃殿下に気を遣わせんじゃねえよ」
口論になりかけた場の空気を笑い飛ばし、モルガンは眼下の森へと降下する。軍鳥も大人しくついてきた。
あの日、雷様の今代の妻であるリンスは
おそらくこれは、〈雷様〉だ。カミナが
しかしそこに彼女が愛した男の
彼女を助けたのは
彼女はこの卵を復活させるべきかずっと迷っている。彼女の兄に頼めばきっと問題なく復活のための機構を作ってくれるだろう。しかし、その中身が〈雷様〉だと知ったら、とっとと捨てろとぶん投げるだろう。
どちらを選ぶこともできず、彼女は卵をただ
(全部消えてしまった。
ずしり、と心が重くなる。だが歩みは止めない。まずはこの森を抜けて、トニトルスに次ぐ第二の技術大国ロスタンジオンへ。そしてトニトルスの
(……大丈夫。私には兄さんがついている。ひとりじゃないわ)
のちに、森の向こうから来た賢者達はロスタンジオンを大帝国に押しあげることになる。技術と人の
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