伝播する神話
夜の神は
今やイグラスの全員が、それを認識している。
なぜならば、夜明けの神の
大樹の
今イグラスの
昨日に去りし夜の神
世界は沈む海の底 二度と戻れぬ夢なれば
目覚めて
神の
夜明けの神よご
夜明けの神のご
「聖歌隊でも、今度あのお歌をやるそうです。僕が司教様の役になりました! やっぱりお顔が似ているからですかね!」
ウルスラが
「ああ、あれね……。正直歌い
「あらら……。それじゃ、僕がとびきりがんばって、セルシアお兄ちゃんの出番を無くしちゃいますね!」
「それは……ありがたいな。ぜひ頼むよ。……ところで、
「……はい、今のところは……。……僕の声ってそんなに大事なんですかね……」
長命種という存在が明らかになり、夜明けの神に仕える司教達が続々と長命種に転じていくと、人々の中にウルスラを子供の段階で長命種にしてしまおうという過激派が出てきた。天使の歌声を持つウルスラが、将来声変わりをしてボーイソプラノとしての価値を失うのを良しとしない一派だ。
一度だけ本当に危険な目に
「やっぱり、人口自体がぐっと
過去の自分にも心当たりしかないセルシアは、強く生きてくれと願いながら小さい従兄弟の頭を
危険な目に
「でも、そうだな……。ウルスラだけが注目されている現状がよくないと考えたら……僕がボーイソプラノで歌えばいいのか!」
なにかトンデモナイことを言いだしたな、この歌の神様は。ウルスラは
「ちょっと……それじゃあ、セルシアお兄ちゃんを休ませてあげようっていう僕の計画が台無しじゃないですか!」
「いやいや、僕がボーイソプラノを歌えることが知られれば、僕に依頼される曲の
「僕の出番を残しといてくださいよ!」
「えー? それは保証しかねるなぁ。チャンスが与えられるのを期待するんじゃなくて、もっと
「セルシアさん。今はお歌の指導に集中してくださいね?」
それまでじっとだまって部屋のソファでニコニコしていたセルシアの最愛の人が、ニコニコ笑顔のまま彼を
セルシアとウルスラは、お互いにそっくりな顔を見合わせて、そっと
──────
快楽都市ルグリアが
炎上し一夜にして
「あの街はあまりに人の道を外れすぎた。滅んで正解だったのさ」
とある
「俺ァいちどあの街に行ったことがあるが、なんでもかんでも金次第。音の民の奴らは足元見やがって、抱かれるしか能のねえ連中のくせに俺のことバカにして、何様のつもりだってんだ。全部燃えてせいせいしたぜ」
「あら、音の民が嫌いなの?」
一人の若い女が寄ってきて彼の前に座り、小首をかしげる。さらりと
「あの街の奴らがきらいなのさ。音の民はイイ……流れの奴らには俺も世話になってる……だがルグリアの
「なら良かったわ。お兄さんのお手伝いができそうだもの」
女が
「お前……お前はあっちの兄ちゃんらのモンだろうがよ……」
隣の
「たしかにエルマリは俺の
ダン、と卓に杯を叩きつけ、体格の良い彼は傭兵にすごみを利かせる。
「そいつの具合が良かったら、もうルグリアの悪口はやめろ。俺達の故郷なんだ。俺の妻と子があの火事で死んでんだよ。なんも知らねえクセにバカにされんのは
まさかこんなへんぴな街にルグリアの人間が流れてきていると思っていなかった傭兵は
「へっ、へへ……じゃあ、
「そうね。私達は
仲間のエルマリが営業に入ったのを横目で見つつ、ミリヤラはウイリマの意識を
「あーあ。セルシアの帰ってくるとこ、無くなっちゃったねぇ」
「ごめんなさい、ルグリアを離れることになってしまって……」
「まあ、残ってたってどうせ家族を逃がせやしなかったさ。少なくとも俺達は、ハワトリさんのおかげで今生きてる。気にしないでくれ。」
ウイリマは今回の巡業の依頼人に明るく笑ってみせた。
「それに、あいつはどこでだって楽しく歌ってるさ。俺達が無事なら、あいつもきっと無事だ。ルグリアと伝説の吟遊詩人の
「あー、それ良いねぇ! どんどん話盛っていってさぁ、スケールがよりデカい方に進めば僕達がいる、とかね!」
いつしか音楽の神セルシアと、彼を追放したために滅びたルグリア、という皮肉な伝説がでっちあげられ広まっていくのだが、それはもっと先のお話。
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