愛は運命に打ち克つか
「インカー!」
クリスがとびらを開けた。
「ノノさん……インカーは……」
クリスがノノに問うと、ノノはそっと口を開けた。
彼女の大きな舌の上に、インカーがいた。しゅうしゅうと
「ノノさんが守ってくれてたんだな……」
クリスはプラズマイドでナノマシンの活性化を
「インカー……聞こえるか? 炎の神の試練だそうだ。体の内の炎を制御できれば、助かるんだと。ロジャーが言ってた……」
インカーは答えない。クリスはそっと両手を伸ばした。彼女の
「インカー、俺だ。クリスだ。俺はここにいる。だから、行かないでくれ、頼む……! がんばれ……何とか耐えて、
やむ気配はない。
これは、だめ、なのか。
インカーでは、なかったのか。
好きになるべきでは、なかったのか。
「いやだ。お前がいないとだめだ。お前が一番好きなんだ! 負けんなインカー、一緒に来い! 苦しい思いなんかさせない。痛い思いなんか、もうさせない。ずっと俺のそばで笑っててくれ!」
彼女は、聞こえていた。
彼女の一番大切な人が、彼女の両頬に触れているのを感じていた。
冷たくて、心地いい。
もう全身が熱くて、痛くて、わけが分からないけれど。
そこだけは、動かせそうな気がした。
「……っ!」
名前を呼びたかった。しかし、
「……シュ、……シュ」
「……! そう、俺だよ、スッスだ」
通じた。ホントか!? 今ので分かったか!? インカーはなんだか
ああ。でも。
痛みをだんだんと感じなくなってきた。
頬の感触も、もう分からない。
そろそろ終わりが近いということか。
この大好きな
やはり、愛してる、がいいだろうか。
いや、それは。
その言葉は。
あいつが死に
クリスを
それだけは、だめだろ。
なら。
「……っしょに、い、きた……い」
『得たり』
インカーは、夢を見ていた。
まっ
おそるおそる、足を
「……どうした? なんで泣いてるんだ?」
『……。マ……マ……』
明らかに子供の声ではない。洞窟の奥を吹きぬける風のような、恐ろしい怪物のような響き。しかし、インカーはその内容の方が気になった。
「母親がどうした? はぐれたか?」
『イナイ……ナッタ………ママ、イナイ……』
「そうなのか。いつからいないんだ? どこへ行ったか、分かるか?」
『ママ……ズットマエ……イナイナッタ……ウゴカナイ……ウメタ……』
「ああ、それは……」
死んだのだろう。
インカーが言葉に
「……どんなお母さんだったんだ。」
『ヤサシ……ミカタ……ボクノコト……ミツケタ……』
インカーはその声のたどたどしい話にじっくり付きあった。声が母親と認識しているのは、拾ってくれた相手のことらしい。彼女に拾われる前の記憶はなく、彼女を
『ネーチャン……ママ、ニテル……ヤサシ……』
「そうか。でも、姉ちゃんは
『ネーチャン……コワイ………オソト、コワイ』
「大丈夫だ。今はほら、姉ちゃんがついてる」
インカーが手を伸ばす。何かが触れた。
「インカー!」
呼びもどされ、ハッと目を覚ます。彼女は炎に包まれている。しかしもう、それは身体を焼いていない。
「インカー、大丈夫か?」
「スッス……。よく分からないが、大丈夫みたい……?」
インカーはノノの舌から起きあがる。熱くないが、炎ではあるらしい。クリスの手はあいかわらず焼かれつづけている。
『炎の神が目覚めた。新生の時だ。インカー、私の中へ入りなさい。そして炎の剣を取るのです』
ノノが念話でしゃべる。頭に響くような、しかし優しい声だった。ノノはごくんとインカーを
もはや体は燃えていない。いや、炎の剣を持つ右手だけが燃えているが、その炎は彼女にとって熱くもなんともないようだ。仔犬達がわんわんと吠えながらインカーに
「よっ。心配かけてごめんな、スッス。さあ……一緒に行こう」
「あ、一緒に行きたい、だったの……? 生きたい、だと思った……」
「そ、それじゃまるでプロポーズじゃねーか!?」
インカーが炎の剣をぶんぶんと振りまわす。危ないわ! モモが決死の
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