唄神の統べる夜
ヨークとミフネがさまざまな屋台に目うつりしながら食料を調達していると、目の前を
「ライサ!」
「……おー? レオンじゃねェか。元気にしてたかよ? サンちゃんもミフネ似合ってるな」
「ありがと。ライサは……それ、何の仮装? ずいぶんなんていうか……
「んー? これは
ライサはその場でくるりと一回転する。身につけている布は最小限の
「うわー、ラライ神かぁ。きれいだなぁ」
「ふふふ、正直は
「ちょっと!? どっちでもいいっていうの!?」
「お金持ってるならどっちでもいいさね。ま、ミフネちゃんもいるし今のは冗談だけど!
それよりルイネがさっきステージの順番待ちしてたよ、そろそろ始まるんじゃない? さっさとそれ片づけて行こうぜ!」
「それは大変、フィーネの応援しなきゃ。レオン、これ残り食べといて」
「いや俺も連れてけよ!?」
ザザ通りに出ると、弦楽器の音が聞こえてきた。人々が声を
「やっぱりルイネとキャミだ!」
ライサが叫び、レオン達は走りはじめた。ライサが人混みをかきわける。
「子供は前に行ってもいいことになってんだ、付いてきて」
そうしてステージのいちばん前に陣どることに成功した。
「水よせの舞のアレンジか!」
ライサが
ついに曲が終わった。キャミの
「しかし水の神は休まねばなりません……私一人での演出となると……」
ルイネは
ルイネが静かに唄いだす。その声はむりなく遠くまで
──ありえないとは思いながらも 心のどこかでは思い描いていたのです あなたとの幸せな日々を……
けれどあなたは行ってしまった 私の想いが届く前に あなたの一番大切なものと共に……
私の想いはどこにあるのでしょう? ただ一つ言えるのは 私はまだあなたが好きですということ
あなたが私を見なくても あなたが笑っているだけで 私は幸せだったのです……
それはかつて置き去られた者の悲しい
心は変わらない。それはもうすぎてしまったこと。分かっている、諦めるしかないのだと。後に残された人々は、過去に戻ることはできないから、過去を変えることはできないから、振りむいてもらおうとはもう思っていない。
それでも、心は変わらない。だから人々は祈る。自分のかつて好きだった人が、今でもなお想わずにいられない人が、例えどんなところにあっても、天国にあっても地の底にあっても、常に幸福に笑っていられますように、と。
不意に
その一瞬、そんな
涙を恥じて立ち去る人が何人か出た。立ち疲れてその場に座る人も出た。我もと楽器を持って列を成していた者達が出直そうと帰っていった。唄神は全ての人々をその歌で優しく包みこむ。
ゆったりとうつくしい曲が収束する。割れんばかりの
もう一曲、とまたせがまれる。当然だろう。セルシアも歌い
「これ当分終わんねーな……あれ? ライサは?」
「ほら、クリスとインカーが来たから……。いなくなっちゃったわよ」
「そうなのか、もったいない。もう気にしなくていいのにな」
「……ちゃんと聴こえてるよ、ルイネ」
ライサは勝手知ったるインカーの家の屋根からステージを
「あーあ。今年は銀竜バッジ
ハッと目が覚める。どれくらい眠っていただろうか。ルイネがまだ歌っている。いや、しかし宮殿の
「バケモンだろ、あいつ……」
ライサは恐れ
「もしかして……意味なんか、無いのか」
生きるのに、意味なんか要らないのか。ただ歌いたいから歌うのか。誰かのため、自分のため、そんなことなんか
インカーのために生きてきた自分。家を買ったのも、資産を
今思えば多分あの最初の選曲も、たまたまライサに刺さっただけなのだろう。そこに意味なんかきっと無い。ルイネが気まぐれに伸ばした指に、勝手にライサが引っかかっただけなのだ。
自然体で生きるのが良さそうだ、とライサは思った。歯車なんて、
まずは祭を楽しんでこよう。ライサはぴょん、と屋根を飛びおりた。
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