五里無水…参…
新生祭の開幕
はるか砂のかなたに日が沈んだ。人々は揃って立ちつくし、その
「おお、カマケ様が鳴かれた……新生祭の始まりじゃ!」
老人はそう
もうすでに準備が完了してから三日がすぎ、民は今日こそはと緊張しながら何も起こらず失望して地下に戻る、ということを
しかしようやく本当に祭をはじめられるとあって、人々は歓喜に包まれた。すぐに大太鼓〈
新生祭……〈
人々は祭の間、神のいない世界で過ごすことになる。しかしそのあいだは三次成長を
その玉犬が、この祭の主役でもある。祈りの舞第一部が終わり、笛の音が
玻璃砂宮へとわたる橋の燭台が、しかけ炎でこちらから順に灯されていく。ついに向こう岸に
宮殿の大とびらがゆっくりと音を立てて開くと、中に大きな炎の
玉犬はかがやく
笛の調子が変わり、静かな調べになる。宮殿から白くかがやく人影が、ゆっくり笛に合わせるように歩いて橋をわたってくる。前後の四人の従者が持つ高温の白炎に照らされて、白い
狼神ズズの
ザザ神が広場のステージに近づいてくる。ズズ神は彼女の姿を見つめて動かない。二神はステージで向きあう形となった。ザザ神がゆっくりと片膝をつく。ズズ神はそちらへ頭を低くし差しのべる。
と、ザザ神が
そのままズズ神の背中に見事に着地する。ドッと歓声が上がった。ズズ神は再び炎を創りだし、足もとに
音楽にいつしか合唱が加わり、祈りを捧げよ、神を讃えよと歌う。小型のタイダル・フー、〈
ぽおん!と大きな音を立てて、炎のズズ神は花火になった。無数の小さな炎の花弁となって散り、闇に飲まれてゆく。それを合図に、次々と花火が打ちあげられた。
「ズズ神とザザ神が消えた!」
レオンが花火に負けないくらい大きな声を出した。
「移動したのよきっと、なにかの魔法か手妻でもって」
「へぇーっ、魔法ってすごいなぁ……」
「リオンさんの世界は魔法があまり無かったんですね」
「うん、科学ばっかりで、魔法なんて言うと笑われるくらいだったよ」
「科学も魔法も、認知できるかどうかだけどな、要は」
「??? クリスなんの話だ?? 難しい話はやめてくれよ」
「じゃあもっと難しい話をしてやろう。あれは緑だからバリウムの花火だな。今のは明るいピンクだから、ストロンチウムかカリウムとマグネシウムを混ぜてあるんだろう。あっこれはマグネシウム……」
「
レオンはクリスに軽く腹パンを繰りだしたが、
「それにしてもインカー、
「えっ? ザザ神もしかしてインカー姉だったの!?」
「えっレオン君気づいてなかったんですか!?」
「インカー姉ってもっとこう……カッコいい系で……あんなに化けるとは」
「素直な感想ありがとう! リオンは褒める練習をした方がいいな!」
一行の後ろから声が掛かる。皆が振りむくと、
「ところで皆何ぼーっと突っ立ってるんだ? 花火なんかずっと
「そうだった! セルのお金を使いきらないといけないんだった!」
「いや……まあ修理で余った分だから別にいいですけど。せっかくだったらサロンのオーナーの
「金鱗邸か! あそこは毎年チーズタピが絶品なんだよな。琴の音通りで屋台出してるはずさ。
食いもんならあとは片目のダイリんとこの
お子様や甘党にはメンメの焼菓子、酒の
夜もふけて温かいものが欲しいなら月の翼亭に行くといい。あそこの
早食いやるなら〈
それから焼き肉はモルヴィんとこのに限るね」
「金鱗邸、ダイリ、月の翼、ヨーク・シャー、モルヴィだな! 分かったありがとう!」
「あっちょ!? レオンあんた字読めないでしょ私も行くから! メンメも忘れちゃダメー!」
若い勇者ヨークと小さいミフネが走りだす。祭に
「インカーさん、どこか飛びいりできるステージは無いですか? 僕とキャミの練習の成果を
「出し物ならザザ通りの宮殿前広場が一番賑わうよ。ただし覚悟が必要だぞ、下手くそはすぐ引きずり降ろされるし、上手い奴は力尽きるまで降りさせてくれないから」
「それなら先に
うつくしいルイネとキャミのカップルが歩きだし、
「……インカーはやっぱり、運営側だから
二人きりになってしまい、炎の神リンリが遠慮がちにたずねる。インカーが気合い入れてデザインしただけあって、金色の鎧に着られてしまうこともなく、
「いや、それがな。例年どおりなら忙しいはずなんだけど、なぜか今年は仕事をぜんぶ
ガラス張りで常に複数人からそれとなく
周知の事実になるのも当然といえば当然だったが、今更のようにインカーは赤くなった。
「ああ〜そっか……めったにないインカーのゴシップだったんだな……。よし、それじゃせっかくだから、皆の
「それは死ぬって!」
ザザは笑いながら自身の主に手を引かれて走りだした。祭は短くても三日、長くて七日間ある。何日続くかの読みあいだ。最初から飛ばしすぎると
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