傷をつけた男
インカーの傷の手あてをしに一階に降りると、
「なっ、どうしたインカーちゃん!?」
「インカー姉がライサと
「ハァ!? あいつ
「やめてくれ、スッス。全部私が悪いんだよ。あいつのことをちゃんと見ているつもりで、
「だからって怪我させることないだろ! ちょっと待ってくれ、俺なら……」
クリスはナノマシンの
「……俺、なら、回復の魔法が使えるんだ。……まず、この丸薬を飲んでくれ。俺がそれに魔法をかけるから、そしたら、そんな傷なんて、傷あとも残らずきれいに治るから……」
「そう、スッスはすごいんだな。傷あとも残らず、か。それは……いやだな」
インカーが苦笑して首をかしげる。クリスは余裕なさげに顔をゆがめた。
「なんでだよ。傷なんか残ったってなんもいいことないんだぞ。それを見るたびに、傷がついた時のことを思いだすんだ。インカーちゃんの心から、あいつのつけた傷が消えなくなる。周りだってそうだ。自分が守れなかったこと、自分がそばにいられなかったことを思いだすんだ。そんなのは、俺、いやだ……もう傷あとなんて見るのもいやなんだよ……」
インカーは
「落ちついてくれよ、スッス。私は
「俺が無理なんだよ……頼む、飲んで……」
クリスの
「!? ……!!?」
インカーは
「クリス君はそんな
セルシアが低い声で
「これは医療行為だ。問題はない。……クリスは甘いからね」
ようやくインカーを解放したクリスから、他人のような言葉が出る。
「スッス……? じゃない、のか?」
右手で口を押さえ、顔をまっかにしながら床に
「クリスより先にキスを
「スッスは……?」
「クリスなら今、
「……お断りだよ。お前の言うこと聞いたら、お前のせいになるだろ。私がキスしたのは、クリスだ。知らない男じゃない」
インカーが男を
「おや、意外とポイント貯まってたみたいだね。かまわないよ、こいつが持ちなおしたらゆっくりそこは話しあってくれ」
そう言ってきびすを返そうとして、思いだしたかのように笑顔でインカーのそばに
「そうそう、医療……の魔法なんだけどさ。傷をどこまで治すかは君の自由意志で決められるからね。そろそろ治療薬が全身に回って傷を治しはじめる。今まだ君が傷痕を残したいと思っているなら、痕は残るよ。そのうち消したいなと思うことがあれば、クリスのそばに行けばまた魔法が活性化されて、簡単に消せるから。僕は傷痕を消せなんて言わない。お好きな
彼の言うとおり、インカーの傷はみるみる
「リノちゃん、どこへ行くんです?」
セルシアが声を掛ける。リノと呼ばれた大男は、普段の彼からはかけ離れた薄笑いをセルシアに投げてよこす。
「ちょっと走ってくるよ。今この場でクリスに制御権戻しても、多分こいつ発狂するから。落ちついたら帰ってくるはずさ」
そう言って、彼は手を振りながら家を出ていった。
クリスは、琴の音通りで捕まえたセルシアから金を
リノのことが許せない。インカーに合わせる顔がない。体の制御権は無かったが、感覚は共有されていた。温かく柔らかい身体、強情なうすいくちびる、
「きっつ……」
クリスは布団に倒れこんだ。最低だ。それらを得たと喜ぶ本能に、
いや、悪酔いしているだけかもしれない。リノが悪いんじゃない。全部丸投げした自分が最低なのだ。リノは合理主義だし
いや、リノのことは別にいい、機嫌を取ってやる
それは、彼女を傷つけたライサの行為と、何が違う?
「インカーなら平気だよ。あいつ強いから」
入り口から声が掛かる。いつの間にかライサが入ってきていた。
「お前……何でここにいるんだ」
「銀竜バッジのライサは顔が広いのさ。
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