四処に雷霆の落つ…弐…
夜這い
「フィーネさん、今少し大丈夫ですか?」
セルシアがノックと共にとびらごしに声を掛ける。返事がないが、とびらの鍵は閉まっていないので、開けて入った。宮殿育ちでは鍵を掛けることもしらないのか? セルシアの口もとが少し上がる。
「僕が
まったくもって謎の理屈である。
フィーネはすでにベッドの上に横になっていた。布団も被らず、靴も脱がずにそのまま横になっただけで、寝てしまったようだった。よほど気を張りつめていたのだろうか、それとも夕飯の際にあやまって
セルシアは少しの間、予想外な事態に固まってしまった。甘く
靴を脱がす。背中から布団を引きぬく。まるで親のように寝かせなおそうとして、自分の
セルシアの世界の感覚では、青は
胸のボタンとリボンを全てはずすと、
さて、これ以上のイタズラはさすがに言いわけが効かなくなる。部屋に戻ってクリスでも誘って夜の街に出かけて仕切りなおすか、などと考えながらフィーネの頭をそっと
フィーネがぱちっと目を覚ました。
「あれ? セルシアさん……?」
「おや、起こしてしまいましたか」
「あれれ?? ここ、どこです……?」
「あなたの部屋ですよ、フィーネ」
さり気なく呼びすてにし、勝手に心理的な距離を
「どうしてセルシアさんが私の部屋に?」
フィーネがきょとんとしてセルシアに首をかしげてみせた。セルシアはベッドにすとんと座って真剣な
「
「心配……です?」
「鍵、閉まってませんでしたよ。だめですよ? フィーネ。僕みたいな悪い男が
「ええ? セルシアさんは悪い男なんかじゃないでしょう……」
フィーネが鈴の鳴るような笑い声をたてる。セルシアはじっさい襲う気で入ってきた悪い男なのだが、微笑みかえすだけで何も言わなかった。
「あれ? 私、服も靴も脱いじゃってますね」
フィーネはいまさら事態に気づき、布団の中でモゾモゾと自分の体を確認した。服は……あった、布団の上に雑に畳まれている。
「おやおや、まるで女神様ですね」
「ああ、たしかにコトノ主様も着ていないことがけっこう……」
「生まれたままの姿のあなたも魅力的ですよ、フィーネ……」
セルシアがフィーネの顔に顔を近づける。余計な話をさせるつもりはなかった。次に何を言われてもキスして
「脱がせたのセルシアさんですよね?」
真顔で言われ、
「えっ? ……なんでそう思いました?」
「私、自分で脱ぐなら一番最初にこのチョーカーを外しますので」
そう言ってフィーネは首についたままのチョーカーを指さす。すっかり忘れていた。最初から脱いでましたよ?なんてとぼけた言いわけを用意していたが、これで効かなくなった。
「あ、ああ〜……」
「セルシアさんですよね?」
「そうですね……」
「ありがとうございます。でも次から自分で脱ぐので大丈夫ですよ」
「はい……余計なことしてごめんね」
「どうして
「それは、勝手に脱がせたから……」
セルシアは下心のある後ろめたさからたじたじとなる。
「それはセルシアさんの世界でも、悪いことなんですか?」
「そうですね……」
「じゃあ、めっ、ですよ」
恥じらいもなく堂々と
「それで、何しにいらしたんですか?」
トドメの一言。セルシアは片手で顔を
「……いえ。帰っていいですか?」
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