四処に雷霆の落つ

四処に雷霆の落つ…壱…

水上工業魔都



 クリス -with Plasmaidd-



 十九歳、男。

 科学的に発達した世界の出身で、ナノマシン技術を持つ。

 雷の剣を取った理由は「押しつけられて」

 脳内に強制的にインストールされた別人格〈リノモジュール〉をともなう。奔放ほんぽうだが繊細せんさいな性格。


──────

 クリスの世界を出発して、二十二回目の朝。だが、いまだに次の世界に着かない。

「……じーちゃん。道まちがえてないでしょうね?」

『いいや、次は水の剣の世界じゃ。水の都、ミズウミノカミコトノヌシが護る世界。じゃからこの川をさかのぼっていけば見つかるはずなんじゃ』

「ん? 誰だって? 湖……ヌシ……?」

湖守ミズウミノカミ琴乃主コトノヌシ、じゃ。湖守みずうみのかみ、あるいは水産みの神。雷様と違い、正真正銘の神様じゃな』

「神様かー。人の身体を持たないってことかなー?」

『コトノ主は超常の力を持つ人外の存在。そのり方は生物というよりは現象に近い。とはいえ、人に接する時は人の姿をとることはある。うつくしい女性の姿じゃよ』

「流れ変わったな」

「それはぜひお会いしたいですね」

 セルシアとクリスのテンションが目に見えて上がる。サンリアは呆れていたが、レオンだってうつくしい女性と聞けば見てみたいな、くらいには思うものだ。しかし、はしゃぐとサンリアに色ボケ二人組の同類扱いされかねないのでだまっていた。


「おや、滝が見えてきましたよ」

「サンリアの出番か?」

「ええー、人数増えてきたからいやだなぁ……。そんなに急じゃないから、先に行ってロープ張ってくれる人がいたら、それ伝って登れないかしら」

「じゃー俺の出番だな!」

 クリスがずずいと前に出る。プラズマイドは両剣の形をしており、つかの部分が使い手の意思で自在に伸びる。腰にロープをくくりつけ、片刃を地面に突きさすと、クリスはずんずん昇っていった。

「バランス悪そう、気をつけろよ!」

 レオンが見あげながら声を掛ける。

「大丈夫大丈夫ー、よっと!」

 崖の上に到着したらしく、クリスは軽くプラズマイドをって着地した。

「うわっバカバカバカ!」

「こっちに倒れてきますよ!」

「もう、しかたないわね……」

 サンリアが風でプラズマイドを崖側に押しもどす。

「いやーごめんごめん、そりゃそうだよな! 次から気をつけるよー」

 ロープを辿たどって後から登ってきた三人に、プラズマイドをもとの長さに戻したクリスはヘラヘラと謝った。

「軽く言うけど私がいなかったら……、わ、これってもしかして湖?」

 サンリアが注意しようとして、目の前の光景に息をむ。

 森がひらけて、うつくしく銀色にかがやく湖が広がっていた。

「そうみたいだねー! これが水の剣の世界かなー?」

『ううむ……? 場所はワシの記憶とは違うが……分からん。コトノ主の名前を出してみるのが早いやもしれぬな』

「それじゃ、ちょっと人を探してみましょうか」


 水の都は湖のほとりを埋めたてたように人工的な形状をしていた。最奥、湖に一番せりだした所には、大きな工場のような建物が見える。黒煙が濛々もうもうと上がり、神様の都どころか、かなり人間くさい都だ。

「何だか、ちょっと怖いところね」

「水の都という呼び方から想起できるうつくしい街並みではないかもしれませんね。でも僕は想像をうらぎられる方が好きです」

「あれ何の煙かなー? 化学工場でもあるんだろうか」

「製鉄所かもよ、俺社会見学で見たことある」

「なるほど、水の都に必要な物……ステンレスか」

 クリスはやっぱり意外と地頭がいいのかもしれないな、とレオンは感心して隣の大男を見あげた。

「左様ですわ、ようこそ皆様鋼色はがねいろの街ギレへ。コトノ主様がお待ちでいらっしゃいます」

 なにげなく近づいてきた女性が突然一行に声を掛けてきたので、皆は顔を見合わせた。女性は気にせず続ける。

「私、このたび案内役をたまわりましたユットと申します。水獣すいじゅうランザーにて街をご覧いただきつつまいりますので、まずは船着場までご同行くださいませ」


 船着場で待機している水獣ランザーは、トカゲのような顔に犬の耳、エラなのかひげなのか分からない豊かな横髪、魚の胴体を持つ巨大な生物だった。カバのように顔と背中が水上に出ている。

「顔がちょっと怖いわね……」

「そうか? サンリアは爬虫類はちゅうるい苦手なのか? これがカッコいいんだぞ」

「面白い生き物ですねぇ、何を食べてこんなに大きくなるんだろう」

「そうだな、あんなに美人だったら彼氏くらいいるかもな」

「「「は?」」」

 クリスがまったく頓珍漢とんちんかんなことを言いだしたので、他の三人は思わずシンクロした。

「え? あ、ああごめん、考えてたことしゃべっちゃった」

「ユットさんのことです?」

「そうそう、ボブカットバリキャリ系美女、いいよね」

「はぇー……ああいうのはそう表現するのか……」

 レオンは素直にクリスに感心した。レオンのボキャブラリーでは、カッコいい、かわいい、美人、賢そう、優しそう、いっぱい食べそう、くらいしか女性に対する形容詞がないのだった。最後のはめ言葉じゃないな?

 クリスは先行するユットに近よった。

「ねぇねぇユットさん、ぶっちゃけ彼氏とかいるのー?」

「えっ……? えと、はい、学者志望の方とお付きあいしております」

「そっかー! いいねー、俺もユットさんみたいな素敵な女性に早く出会いたいなー」

「ええと……ありがとう、ございます」

「ううん! お邪魔してごめんね! ランザーに乗るにはあっちから?」

「あ……はい、そちらから階段を昇っていただいて、桟橋さんばしから背中にお移りください」

 クリスは階段の手前で立ちどまり、レオン達が追いつくのを待った。

「残念でしたね、クリス君」

「ほら、俺って優しいから、他人のを奪ったりはしないんだよ」

「案外口説き下手だったりして?」

「そりゃセルには叶わないけどね? 老若男女ろうにゃくなんにょからモテるから、俺」

ろうなんも口説くのか?」

「レオンくーん。あしとりはモテないぞー」

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