レオンVSクリス

 準決勝戦。

 レオンはクリスと対峙していた。

 クリスの視界は奪ってある。しかし、クリスはレオンの方に顔を向けて不敵な笑みを浮かべている。

 分身となる映像を置き、自身の姿を隠して動こうとする。

 クリスは、レオン本体の方の動きを追った。

 完全に読まれている。

「おどろいた……クリス、お前も分かるのか」

「なんのことやら、だよー? 何も見えてないよー?」

 見えてないが、知覚されている。もはや光の剣のアドバンテージは消えさった。

(……セルシアとリノがデキてるぞ)

 小声でささやいてみる。聞こえてたら絶対に反応するはすなのだが、ピクリとも動かない。耳で知覚しているわけではないらしい。では、なんだ?

 匂いは遠距離での動きに即応できるようなスピードでは伝わらない。それはサンリアと影分身対策を考える時に教えられて除外した。ならば、皮膚で知覚できる空気の流れや、足の裏に伝わる振動。とてもその手の武芸の達人には見えないが、現時点では一番可能性がありそうだ。

 レオンはサンリアと取り決めていた合図を出した。闘技場ににわかに強風が吹きはじめ、レオンがふわりと宙に浮く。空を飛んだりはしない、とクリスにうそをついたことを思いだしたが、気にしない。

 だって勝ちたいじゃないか、せっかくだから。


「ん、んん? それどうなってるのー? いやぁ、さすがに君達は面白いな!」


 クリスが突然肉迫にくはくしてきた。

 レオンは受けとめ、わざと風に流れて離れた。もちろん足など着いてやらない。

 しかしクリスは追撃してくる。

「なんで分かるんだ!!?」

「ふふん」

 こうなっては防戦一方だ。謎のニンジャを本国の英雄が力と速さで追いつめていく。

 レオンの両腕がズダダンと斬りおとされた。

「ぐあああっ!!!」

 完敗だ。レオンは激痛と共に地面に崩れおち、勝者クリス、のファンファーレと大歓声を聞き、衛生兵が駆けよるのを認識しながら、それでもなんとか種明かしをしたいとクリスをにらみつけていた。

 グラードシャインは握れないが、体内に取りこんだ翻訳ナノマシンがクリスの声を届けてくれた。


「雷様にジャックできるのは君達だけじゃないってことさ」



「いやー、ほんとひどい! 完全にやられましたねー!」

「そうですねー!」

 レオンの試合の後、セルシアはなぜかめちゃくちゃ上機嫌で、レオンも両腕が落ちたりくっついたりしてヤケクソになったのか、もう戦わなくていい安堵あんどからなのか、めちゃくちゃハイテンションだった。

「いやでも、レオン君の対策はすごかったですよ。僕なら……まぁ多分勝てたけど、音や振動の対策もしてたってことですよね。まさか闘技場で空を飛ぶなんて……! 『サンリアちゃんみたいに飛ぶの?』『んなことはしねーけど』っく、わははは!! はぁ〜くに知恵ちえしゃ! 素晴らしい!!」

 セルシアが手を叩く。レオンは満更でもなさそうに、だが素直に喜ぶ気持ちにもなれず、取り戻した右のこぶしひざを叩いた。

「完璧だと思ったんだけどなぁ……! なんであんなに正確に動けたんだ」

「雷様にジャックできるのは君達だけじゃないってことさ、ですよね」

「そう、それがヒントだと思うんだけど……目でも耳でも、多分鼻とかでもなかった。うーん、分からーん!」

「でも、僕には大ヒントになったな。多分、リノちゃんの技術が関係してるんだろうな」

「セルシア……そういえばなんでリノちゃん呼びになってるのよ?」

 レオンが元気そうなのを確認していつもの調子が出てきたのか、サンリアが気になったことをツッコんだ。

「え? ああ……可愛かったから、ですかね? 無意識でした」

「可愛かった、ね。まぁこれ以上は聞かないでおくわ」

 サンリアは溜息をつき、レオンはこれ以上何を聞くことがあるんだ?と疑問に思った。


 一方こちらは王位継承者ごとにそれぞれ与えられる控室。

「リノ、今回もありがとー!」

 クリスはアイシングしてもらいながらリノとハイタッチしていた。体をブーストしていると、とんでもなく火照ほてるのだ。リノはその対策を自身のモジュールで試しているが、まだ試用段階だからとクリスには導入してくれなかった。

「こんくらいお安いご用だよ。でもま、まさか僕のナノマシンが会場の空気中に無数にまぎれてるとは思わないよね」

「リノは最高の技師だよやっぱり。知ってた。俺のメンテも毎試合バッチリしてくれたしねー。というわけで抱かせて?」

「馬鹿野郎つぎ僕の試合なんだよ! マスかいて見てろ!」

「えっ!? 見抜きいいんすか!?」

「あー!! 今のは違うやめて同類にしないで」

「一昨日の晩は最高だったねー! 終わったらまたセルシアさんも呼んで三人でイチャイチャしようねー」

地獄じごく絵図えずやめろ!」

 悪態あくたいをつきながら自分のあしを触ってくれる可愛らしい金色の小鳥。クリスはその腕を引っ張りむりやり抱きよせてひたいみつくような乱暴なキスをし、そのまま耳もとでささやいた。

「……おい。セルシアさんに負けたりしたら、許さないからな」

「……負けるわけないだろ。お前の相方はこの国で最強なんだよ」

 リノのすずやかな声は脳に直接届くが、クリスはリノのふん、という鼻息が肩に当たることの方に幸せを感じていた。

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