混ぜるな危険
ひかり。におい。くらくらする。あまい。うるさい。しびれる。いたい。きもちいい。なにをされている? べつにどうでもいい。うっとうしい。たりない。のどがかわく──
「あーあ、ガンギマリじゃん。数日でこんななる? 普通。
かわいい、声。カランカランと
視界が、五感が、思考がジャックされる。いや、ジャックを解除されたのだ。頭の中が明確にクリアになっていく。
「──っ、あー……効いたァ………」
「だっさいなぁ……」
毒づく眼前の天使に、彼は抱きついた。
「うわっ!? ちょっと、もう大丈夫なはずだよ! まだおかしいフリなんて通用しないからね!」
「分かってる、愛してる、リノ、んちゅー」
「うわーやめろー! 臭い! 汚い!! 水風呂で頭冷やせクソ野郎!!」
「こらこら……僕の前でイチャイチャするのやめてもらえますか……」
同じく口内に注射を打たれ、まだぐったりとかべにもたれて座りこんでいる灰色の髪の青年が、力無く笑った。被せなおされたヘッドセット以外、全裸で。
「おにーさんもだよ……何がどうなって二人
そこは薄暗いホテルの廊下。ティルーンなどの荷物や衣類は彼らのそばに捨てられてそのままになっており、それが治安は悪くても犯罪は少ないことの
「女の子達と楽しく遊んでるところで何か多分食べた? 飲んだ? 吸った? かして、そこからはちょっと自信ないです」
「
「いやー、うん……次から気をつけますね……」
「ラリッてるセルシアさんもーさいこーだったよぉ」
「……こいつの
「あー、んー……まあそうかも?」
「なんか……ごめんね……。こいつに入れてあるモジュールがあんまり長いこと
「なーに、心配してくれたのー? リノも混ざるー?」
振りほどかれ地面にひしゃげたクリスが手をのばすと、リノは
カラン……
と無言の鐘ひとつでこたえ、クリスはその冷たい瞳に
「……すんません」
「うん。次うざ
「ハイ……」
「あと国外の客人に変なパッチ使わないで」
「ハイ……でもセルシアさんが」
「言いわけ無用」
「ハイ……」
そのようすが、
「おおかた宿代が切れて部屋から追いだされたんだろうけど……まず風呂に入らないとだからまたひと部屋借りたから。ほら二人とも荷物と服持ってそこの部屋入って。さっさとシャワって出てきて」
「あの、リノさん……クリス君と一緒にシャワーはちょっと」
「お前ホントに何したの!?」
仕方なく、リノは大の男が二人で入る風呂場のドアを開けて見はり番をした。クリスは「ちょっといいかも」などとふざけていたが、リノは完全に無視した。
「あのさぁ、大会までもうあと二日なの。知ってる?」
「お、もうそんなに経ってたかー」
「お、じゃないんだよ! 僕が助けにこなかったらお前ら出場すらできなくなるとこだったぞ!? その場合クリス、お前はまちがいなく有罪だ。雷様が呼んだセルシアさんを
「そんなー、俺は誑かされた側だよー!
「ははは、マスクは付けてないけどクリス君の声は普通に聞こえてるんですよ」
「そして否定はしないんだねセルシアさんも……はぁ、いやな化学反応だな……。てか何? 有り金すっからかんって言った?」
「あっ、そうじゃんリノちゃん貯金も……! ごめん!」
「別に? 元々クリス……
「リノ……そんなに俺に期待してくれて……むり、
「え、何そういう流れ? お手伝いします」
「違あぁぁう!!!!!!」
リノは
そんなわけで、セルシアが宮殿に戻ったのは、本当に大会前夜となったのだった。
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