雷様のやり方

 セルシアが去ったので、レオンは自室に戻りベッドにダイブした。

 連日のトレーニングで、体が休息を求めている。しかし、食事を取らないと筋肉きんにくは付かないのだ。

「コール、ルームサービス、昨日と同じので」

 ARに向かって呼びかける。

 サンリアが考えてくれたトレーニング用ディナーメニュー。けっこうガッツリ系だが、誰かと話しながら食べれば苦ではなかった。でも今日は食べきれるだろうか。

 あんじょう、部屋に食事が届いてベッドまでいい匂いがただよってきても、レオンはなかなか起きられなかった。

 コンコンコン、とノック音。レオンはもしかして、とねおきた。期待どおり、ドアの外にはサンリアが自分の食事ぼんを持って立っていた。

「今日も晩ごはん一緒に食べるでしょ?」

「ああうん、待ってた」

「あら、待たせた? ごめんね。セルシアは?」

「クリスと出かけたよ。数日帰ってこないってさ」

「へぇ、そうなんだ。なんの特訓かしら」

(少なくとも大会のための特訓ではないだろうな……)

 レオンは出かける二人のうわついたようすを思いだしながら、「さあな」とだけこたえた。


「今日は何してたんだ?」

「今日も調べ物よ。

 雷様が、雷の剣プラズマイドを今回の大会の目玉にえてる。剣の仲間の物語は、ここでは皆が知るおとぎ話だった。図書館でおとぎ話を調べてみた。他の剣の名前や数、能力については言及げんきゅうされていないから、じーちゃん的にはセーフ。

 っていうここまでが昨日までの話ね。覚えてる?」

「もちろん」

 だがおさらいはありがたい。細かい話は何度もされないと忘れてしまいがちだ。

「よかった。で、今日の収穫しゅうかくは……、雷の剣は今までも何度か褒美ほうびとして、賞品として人の手にわたってるみたいなの」

「そんなことして平気なのか!?」

 レオンは思わずテーブルに身を乗りだした。サンリアは動じない。

「結論から言うと、平気だったみたい。選ばれし者……誰が選んだ選ばれし者なのか、ずっと気になってたのだけど、どうやら長が選んだ者、というわけみたい。

 雷様が選んだ者だから、その人は雷の剣を持てた。レオンのことは昔にレオンのお父様が選んだ。私のことはじーちゃんが。セルシアは、メイラエさんが。

 長は、先代の長から秘伝ひでんで受けつぐものなんだけど、そこに血縁けつえん関係が関わるのはしかたない。血を継がないといけないからね。そして長は血族けつぞくから、英も選ばなければいけない。いつ来るか分からない、侵略しんりゃくの時に備えてね。

 そしたら、分かるでしょ? 次代の長に選ばれるのは、かつて英として指名された者。先代の、選ばれし者……というわけよ。これが秘密を守りぬく手段だった」

「それじゃあ、この剣は昔父さんが使ってた剣……ってことか?」

「ううん、それも違うわ。本来剣は封印ふういんされたままになっているはずのもの。風の剣は姿を変えて、光の剣は神社の森に、音の剣は城の地下に。でも雷の剣は、というかこの世界は特殊とくしゅ。長が代替わりしないの。だから秘伝にする必要すらない。英はことあるごとに選ばれて、まだその時ではなかったと判明すると、消される」

「……け、消される?」

「消されてた。過去の大会のうち、何十年かに一度のペースなのだけど、過去何度も優勝者はたしかに雷の剣をいただいている。そして、数年たして返納へんのうした記録もある。そして……そこから先、その人が何かの職にいたという記録は無い。一人も。つまり、」

「消されてたっぽい……ってことか……」

「そう。そして人が消えていることは、こんなに簡単に辿たどれるくらいだから、隠したい事実でもないようなのよ。

 ……この世界は雷様の世界だわ、だからあの人が何をしようととがめられる人はいない。でも万事ばんじこんな感じなら、その……言っちゃ悪いけど抗議こうぎの自殺者も出るわよね……」


 サンリアは頬杖ほおづえをついて溜息をらしたあと、ふとレオンを見やり、彼の食事がまだぜんぜん終わっていないことに気づいた。

「あっ、ごめんね!? こんな話したらごはんも美味しくなくなるか」

「え、ああいや、大丈夫大丈夫……。食べる食べる、へへ」

 レオンはサンリアに気をつかわせまいと、がんばって食事を続けた。サンリアは、そんな善良ぜんりょうな彼の姿に、自分達の使命が正当でほこり高く、誰かを不幸にするものではないと信じたい気持ちを無意識に仮託かたくし、心の暗雲あんうんを振りはらっていた。


 サンリアにとっては村を出るいい口実こうじつだった剣の主としての使命は、それでも自分の世界に住む、自分と無関係な人の生活まで守る、いや自分と無関係な他人だからこそ守りたいと思える正当なものだった。彼らの生活をおびやかす侵略行為は〈深く考えるまでもなく当たり前にダメ〉なことだった。ダメなことをしている人間は止める。シンプルな論理で行動していたのだ。

 だが、ここに来てその使命のために、彼女の価値観の中でダメなことをしている者が現れた。もちろん相手は神様だから、彼のつくりあげた街だから、そしてクリス達はそれを承知で住んでいるのだから、ただの旅人である彼女に口出しをする権利はないとわきまえている。それでも、人の倫理観から外れるモノが人を支配する構図は、好きになれない。

 半人半神というなら、人をなぞって生きればいいのに。

(レオンみたいなマトモなやつが神様ならいいのにね……)

 そう思った瞬間、目の前の少年は思いっきりむせて鼻に入った!と騒ぎだし、レオンは神様なんてがらじゃないわね、と彼女は心の中で微笑んだ。

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