教えてやらない
昨晩のうちに雷様にさっそく頼んだらしく、セルシアは朝食を終えると中庭で何やら不思議な器具を使って訓練をはじめた。たたずむセルシアの周りに人の絵と、人の影の絵が次々現れる。セルシアは影を斬らず人の絵だけを斬りふせる訓練をしているようだった。セルシアが一息つくまでレオンは筋トレしながらそれを
「セルシア、それ何の訓練なんだ?」
「あぁ、レオン君には不要だと思いますよ。これは聴覚に頼りがちな僕が、視野を
妨害や知覚遮断が無効化されるといっても、雷様の魔法を上回る使い手が現れればおしまいでしょう? もし何も聞こえない相手に当たった時は、他の感覚に頼るしかない。全部
「ははぁ、意識高いな……」
普段から剣とともにあるセルシアは、体や剣技を磨くよりも、ここでしかできない訓練をと考えたのだろう。レオンもせっかくだし相手がまったく見えなくなったときの対策を考えるか?と考えたが、いまさら自分の耳がよくなる気はしない。
「まあ、剣で知覚すれば問題ないとは思いますよ?」
「剣で……?」
「うーん、音の剣と一緒かは分からないですが。レオン君、目をつぶってグラードシャインに意識を向けて、剣にうつる景色が見えるようにイメージしてみて」
「剣にうつる?」
「今はグラードシャインが君の目だ。グラードシャインを
「あ、何かそれ、」
(戦いの最中、今までも無意識にやっていた気がする。普通見えないような位置の敵も、こうやって剣を振れば、)
「ああ、分かった。見えた! これで勝てる!」
「早い、さすがですね。よかったよかった、これでレオン君は剣の
「あ、ハイ。基礎がんばります……」
レオンがすごすごと中庭の
セルシアは、剣を弾きとばされたら知りませんけどね、とまでは教えてやらなかった。そもそもそんな妨害ですら要らぬ心配かもしれないし、実際に剣を飛ばされて一度斬られてしまえとも思っていた。
どうやら平和な世界にいたレオンは、恐らく剣で傷を負ったことすらないのだろう。その彼が剣を振るうことが、セルシアには危険な行為に思えてしかたなかった。木剣でこてんぱんにするのもいいが、やはり一度は真剣の怖さを味わうべきだとセルシアは考える。この武闘会ではどんなに斬られても死なない、まさに理想的な環境だ。
セルシアはレオンと当たった時には、サンリアにも遠慮せず、
大会一週間前の夜、それぞれの訓練を終えたセルシアとレオンがお
「ちゃー! セルシアさんいるー?」
ノックの音より大きな声がとびらの向こうから聞こえてきた。
「ああ、クリス君ですか。いらっしゃい」
セルシアが声を掛けると、とびらがロックを自動で外す。シュンと開いたその向こうに立っていたのは、果たして茶髪の好青年だった。彼はずいずいと笑顔で入ってきたが、セルシアとレオンが下着姿で向かい合っているのを見てピタリと足を止めた。
「おっとお
「そういうんじゃないですよ頭の中お花畑ですか?」
「なんだ?」
「ほらレオン君が理解できずに困ってるじゃないか……なんです、
「偵察なんてしないよー俺はこう見えて強いからねー! まあ今回はリノも出るから、あの子と当たったら分かんないけどー」
「そうなのか? リノって強そうには見えないけど……」
「あいつが本気出す時は、ガチガチに固めてくるからなー。生身の人間と戦ってるとは思わない方がいいよー」
なるほど、
「
「ふふ、やっぱサンリアちゃんみたいに飛ぶのー?」
「そんなことはしねーけど」
「こら、レオン君。情報は出しおしみしなさい」
「えーん、なんかめっちゃ目の
「おや、そうでしたか」
塩対応しながらも人当たりのいい
「君の
「うぇ! まあいいけどー。その楽器背負ってけば遊ぶ金くらい簡単に
「……まさかそれ目当てで? もともと持っていくつもりでしたが」
「よーし、いいぞー! 楽しみだなー!」
「なんで僕より君の方が嬉しそうなんだ……レオン君、そういうわけで僕はしばらくいなくなりますね。大会前夜には帰ってきます」
「どんだけ!?」
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