声を捨てた天使
ふわり、と空気が香りを
煙のような、焼きたてのパンのような、日溜まりのような、悪くない香りだった。
四角いゲートがいくつも並んでいる。その中を、一行の乗った
「このあたりは外国人観光客向けの高級ブランド店ばかりだよー、武闘会で
鳥籠がカクンと右に曲がった。下は雲の
「ふふふ、不思議そうだねー。これはトニトルス名物、
「うわー、なんかすっごいな!」
正直それ以上説明されてもよく分からん!となりそうだったので、レオンは素直に感動することにした。
街並みは
「この辺はもう低所得市民の日常生活区域だから、AR無しだとあんまりパッとしないんだよねー。よそで言うところのスラムに近い。でもね、」
ゴンドラが減速しながらゆっくりと運河の岸の
「ここが、今から皆の助けになるところ。
クリスの
「やっほーモルガンの
「んん?
中は
クリスにいらえたのは、スキンヘッドでタバコのようなものを
「ちょいワケアリの外国人客さ。ARが使えなくなってるんだ。必要なナノマシン一覧は雷様から来てる?」
「ち、アレかよ。未読無視するつもりだったのに……」
モルガンと呼ばれた店主らしき男は、
「ようこそ、お客さんがた。
クリスは何かの蒸留酒、サンリアはクリスと同じ物、セルシアはカウンターで目に付いた果実酒、レオンは飲酒の経験がほとんど無く困ったが、濃度三パーセントくらいのやつを、と頼んだ。元の世界の広告でよく見かけるチューハイがそれくらいだった気がする。
「あんまりうすいと効かねえんだがな。まあ、後で足せばいいか」
店主が何やら
「叔父貴、リノはどこ? 俺はリノに会いに来たんだけどー!」
クリスが
不意に、
カランッ……
手持ち鐘を右手にぶら下げた、金髪三つ
「リノー! 会いたかったよー!」
リノが店主のモルガンを
レオンがグラスに
「ヘッドセットつけろって言ってるよー」
透明なハーフマスクに眼鏡と耳を
「僕はリノ。ここの
耳に少し低めの女性の声が流れる。いや、これは少年の声だろうか。
「キャリブレーション終わるまで待ってね。聴覚完了、視力調整完了、言語認識、えーと……うわ、雷様特別パッチだって? 三人とも違う国から来たの? おもしろいね……はい完了。
「おお、俺の国の文字だ、すげえ!」
レオンは思わず声をあげた。異国どころか違う世界で、こんなにありがたいことはない。ぐるぐる見回すと、酒のラベルからポスターの内容まで、オーバーレイヤで
(気持ちは分かりますが、あんまり
セルシアのささやきが全然平常心でなくて思わずニヤリ。こんな体験、あの石の街では絶対できないだろう。
リノの方を向く。彼の顔のそばに目のようなアイコンがある。何だろうと思って視線をそちらにやると、リノのプロフィールが出てきた。
【公開情報 リノ・ライノ 一級技術士(電気電子) 十七歳】
リノの背後のクリスの顔には、
【公開情報 クリス・カニス 鑑定士 十九歳】
「クリス十八じゃねーじゃん!」
「たはーバレたー!」
「え、どうして分かったんです?」
「クリスの顔に書いてあるぞ」
「顔? ああ……なるほどこれか」
「なんでそんなすぐバレる微妙なウソをついたのよ……」
「実は今日誕生日でさー」
「それもウソだよ。クリスはそういう奴」
「リノちゃんひどい! 俺は害のあるウソはつかないよー! ただの冗談さー」
ひどいと言いながらクリスはリノの肩を更にぎゅうと抱き
「クリスってゲイなのか?」
「いー!? いきなり何!!?
「あ、僕は男は
「リノちゃんは
「さっき僕にナンパ吹っかけてきたのは?」
「せせセルシアさんリノの前で言わないでくれるかなぁ!? それはもちろん! 好みだったからだよ!!」
「……ねぇあなた酔いすぎじゃない?」
「うえーん、こんなんじゃ酔いたりないよー! もう今起きたこと全部忘れたいよー!!」
「クリス君は美人が好きなんですねぇ」
「セルシアのその顔に対する自信はなんなのよ……」
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